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Channel: 帝國ノ犬達
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オゾンガス

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五月十五、六日、臺北市船津技手によつてオゾンガスがヂステンパーの特効薬であると云ふことが發見されたと云ふ快ニユースがラヂオと新聞で大々的に発表された。
未だ直接船津兄の世界的アルバイトを拝見してゐないからどの程度のものか判明しないが、ヂステンパーの病原菌に對してオゾンガスとやらが選擇的に作用するのならテンパー以外は駄目かも知れない。

併し恐らくそうでもあるまいから、さうなると人間の麻疹やインフルエンザ、其他テンパー類似の傳染病に對して特効薬になるかも知れない。兎に角臺湾の獣医界が政界に誇る大發見と云ふことになる譯だ。
併し假にも特効薬と名づけられた以上、良薬には相違あるまい。

その良薬の発表までには随分苦心されたことと思はれる。安静食餌療法で放任して置いても全快する様な患犬を、治療試験動物として其の効果を決定した譯ではなからうし、そうかと言つて激烈な胃腸や肺炎に冒され、更に神経をやられてピク〃始め出し、おまけに十二指腸蟲でもフンダンに寄生してゐると云ふ様な重症の患犬が二、三本の注射で全く健康を恢復すると云ふ神話の様な事柄が現實にありさうにも考へられない。謎の様な犬界の福音である。

人間に於ける所謂特効薬は「只今特効薬を注射した」と云へば患者は一種の力強さを感じ、大した効力がなくとも患者に慰安を與へることになるが、人語を解せぬ動物の場合はそれが出来ない。
癌や結核や淋疾の特効薬の様に、犬界の発達と共にヂステンパーの特効薬も多くなることであらうが、熱心にして合理的なる平素の飼育管理が、萬病の特効薬であることを私共は忘れてはならない。

宮本佐市「臺湾犬界雑話」より 昭和11年

ジステンパーへのオゾンの効力はさて措き、プラセボ効果の概念が戦前からあった事は興味深いですね。
宮本獣医のお話は、いつぞやのテレビ遠隔治療といい攻殻機動隊まがいの神経接続といい、未来を透視するかの様な発想が多くて驚かされます。最後は真っ当な結論で締めるのですが。


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