最近銀座で愛犬家同士の許嫁者が愛犬のために約婚を解消した、世にも珍奇な事件が起つた。
何れも相當家庭の教養ある青年男女で、話はトン〃拍子に進んで、時々一緒に散歩するまでになつた。ある時偶然愛犬の話が出て、それでは一度お互ひの愛犬を連れて散歩しませうと云ふことになり、約束の時間に男は銀座から日比谷へ、女は日比谷から銀座へ向つて途中で出會すことにした。
その日になつて約束の時間に彼はブルのやうないかめしい日本犬、彼女は可愛いポメラニアンを伴れて段々二人の間は接近した。
微笑。
立止つて挨拶をしたまではよかつたが、お二人は許嫁者でも不幸にして犬両者は見ず知らずの他人であつた。
日本犬は矢庭にポメラニアンにとびかゝつて一噛みに殺さうとした。それを見た彼女は挨拶もあらばこそ、大急ぎで愛犬をかばひ、漸くにして一命を助けた。
そして両人はお互に気拙くなつて、その儘挨拶もせず、又東西に別れて立去つて仕舞つた。
その翌日、男の方から婚約解消の通告が來た。
その理由が振つてゐる。
「昨日貴女の犬を引きわけた勇壮なるところを拝見したが、僕は生来弱気の男で、将来が案じられる」
と云ふのであつた。
犬の真剣の噛み合ひを引分けるのに、なりふりなどかまつて居られないわけであるが、ともかく犬の喧嘩のために、この縁談はフイになつた。
「犬界ゴシツプ」より 昭和12年
犬が取り持つ人の縁、とかいうなれそめ話は珍しくもありませんが、正反対の事例もある訳ですねえ。
これは戦時日本におけるポメラニアンの記録であって、野次馬根性で載せた訳ではありません。マジでマジで。
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ポメラニアンvs.日本犬・銀座お見合い事件
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