Quantcast
Channel: 帝國ノ犬達
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4169

海とエアデール

$
0
0

ある一日誘はれるまゝに犬を連れて海水浴に行つた。
私は一體海が好きではない。魔海といふ言葉があるが、私は海をいつもかう思つてる位である。
その私が飼う水浴に遊ぶといふのは實に久方振りあつた。

田舎の海岸へシェパードとエアデールとを連れて行つたので、土地の人々がシェパードを見て、アレが軍用犬だとさゝやきあふ声が聞こえるが、エアデールを、アノ毛がモジヤモジヤした犬は何んだ、といふて軍用犬とは凡そ縁のないものゝやうに思つてるらしい。

そんなことはどうでもいゝが、私が浅瀬でジヤブ〃やつて居ると波が寄せる。
二頭の犬が乱気になつて私に飛付いて來る。
波が消える。犬には安堵の眼色がうかゞはれる。
又波が來ると吠えて私に馳付ける。こんなことを幾度か繰返して居つたが、もう犬は異変なしと思つたか、波が寄せても助けに來てくれなくなつて仕舞つた。

事實はタツタこれ丈のことであるが、然し犬の可愛い亦有難い性能が判然として居るではないか。
私はその日この二頭の犬二いつもより多くの愛撫を與へてやつたのである。
安達一彦「ほつかいどうだより」より 昭和10年


Viewing all articles
Browse latest Browse all 4169

Trending Articles