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犬の草紙 巻之一 田犬毒蛇を咬んで主を助く

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和漢今昔犬之草紙(全6巻)
作・絵 暁鐘成 
出版 嘉永7年(1854年)



犬
大蛇と闘うワンコたち。

今は昔陸奥国に住みける賤き者あり。
家に数の狗を飼ひて、常に具して深山に入りて、猪鹿を捕らす事を晝夜朝暮の業とす。狗も主が山へいれば、喜びて前後(あとさき)にたつて行き、猪鹿を咋殺(くいころ)すを役とす。
斯する事を世人狗山といふなるべし。
斯る時は食物を持ちて、二三日も山に留る事多し。

或時、此男例の如く狗どもを従へ山に入つて、其夜は大いなる木の洞に入つて、傍に弓、胡籙(やなぐい・矢入れ)、太刀など置き前に火を焼き、犬どもは四面(めぐり)に皆臥したりけり。
然るに夜更けて犬どもゝよく寝入りたるに、年來勝れて賢き犬ありしが、俄に起走りて主に向ひて夥しく吠えければ、主は何を吠るにやと、怪しく思ひて見めぐらすに、吠べき物なし。
犬は尚吠止まずして主に向ひて、跳りかゝり〃て頻りに吠るに、主驚きて吠べき物なきに斯有は主を知らぬものなれば、人もなき山中にて我を喰はんと思ふならんと、切殺して捨ばやとて、太刀を抜いて威しけれども少も退かず。

彌(いや)ましに吠ければ、斯る狭き穴にて喰ひ付かれなば悪からんと思ひて、洞より外へをどり出ける。
此時に彼犬洞の上の方にをどり上りて物に喰付きぬ。
主さては我を噉(くら)はんとて、吠けるにはあらざるけりと見るうち、何かは知らず夥しきもの、犬と共に落ちたり。
犬尚も放さず喰付き居たり。
主見るに二丈あまりなる蛇なり。主刀を抜て蛇を切殺して、犬を引放しけり。
是は此木の上に大蛇の梄(すみ)けるを知らで、其洞によりて臥しけるを、蛇の呑むとて下りしを見て、犬は吠えけるなり。
若犬なくして此蛇にまかれなば、何ぞ助る事あらん哉。
我為には無雙忠ある犬なりとて伴ひ家に帰りて、殊更に愛しけるとなん語り傳ふ。

今昔物語

参州犬頭の社の故事、又泉州犬鳴山の由來に粗相似たり。
犬の主を思ふ事斯しばしばなり。尚後に記すべし。



鐘成さんが書いているとおり、この話は地域別に脚色されていました。和漢三才圖會では三河国での出来事となっています。
筋書きも「突然猛り狂い出した愛犬を宇津左門五郎忠茂が斬殺したところ、その首が飛んで行って、今まさに忠成へ襲いかかろうとしていた大蛇に喰いついた」というバッドエンドに変更(そっちの方が有名ですが)。


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