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Channel: 帝國ノ犬達
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明治犬猫論争☆第十六ラウンド

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屋外に出でゝ働くのは男子の務である。
家にあつて家庭を守るのは女子の務である。
夜間、家の外で主家に禍のない様に護る犬は男子である。
鼠の害をふせいで、家内の安全をはかる猫は女子である。
もし男子と女子と何れが有用かと問ふならば、答へ得る人はないだらう。犬と猫も其の如く、犬には犬の務がある。猫には猫の長所がある。
譬へ捕鼠器があつて、鼠を捕へると云つても、器械は器械である。生きた猫にはとても及ばない。
警官があつて盗賊は捕へるが、犬の如く各家々にあつて番をする事は出来ない。
犬と猫は、その有用な點に於て優劣がない。
只飼ふ人の好き嫌ひのある丈けである。

府下田端
唐澤章 十四歳五箇月
自作證明者 伯父・唐澤清


至極公平な議論のやうに思はれます。



はい、唐澤君のいう通り。
長きに亘る犬派と猫派の論争は、とどのつまりが好き嫌いの問題です。
しかし、それを言ってしまうと論争が面白くなくなるので、あまり達観した意見は出さない方がよいでしょう。
そしてこれからも犬派と猫派の争いは続いてゆくのです。

今回で明治犬猫論争は終了。最初は軽い気持ちで載せたのですが、この16回を通して多くの発見がありました。

明治時代の日本では、アルプスの救助犬がとても有名だったこと。
養蚕業界では猫が主役で、捕鼠犬が知られていなかったこと。
お使い犬が明治時代から活用されていたこと。
軍用の伝令犬や負傷兵捜索犬の任務が知られていたこと。
日常の仕事で輓曳犬が運用されていたこと。
当時の日本に存在しなかった警察犬が、既に映画を通して知られていたこと。
大人の愛犬家だけではなく、子供達がソレを知る環境が整っていたこと。

当初の「明治犬界はあまり発展していなかっただろう」という先入観はガラガラと崩壊しました。
そのことを少年少女の作文から教えられるとは。オノレの薄っぺらさが情けないやら腹が立つやらで、真面目に明治時代を調べ直そうと思った11月の夜でございます。

実は、児童の作品自体はずっと調べていたんですよ。
動物の話は子供の教材としてうってつけですから、犬に関する作文もたくさん残っているのです。
ただし、昭和の作品では「感心なハチ公」「勇ましい軍用犬」が決めゼリフであり、ややマンネリ化していました。
明治の日本には、「忠義を尽くしたハチ公」や「勇敢な軍用犬」など存在しません。
そのような時代の記録はとても貴重なのです。他にも見つかればいいなあ。

追記
唐澤君はえらく古風な男女観を語っていますが、この時点では江戸時代が終わってから僅か43年。なるべく大目に見てください。男女論争ではなく犬猫論争の作文なので。

以上、「犬と猫とは何れが有用か」より 明治43年


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