・放し飼ひ禁止
畜犬の放し飼ひ禁止は畜犬の盗難を防止したり、他人に欺されて不慮の被害を豫防するのみではなく、囲の中に居れば恐るべき狂犬から咬まれることもなく、又自分の飼犬が他人を咬傷して問題を起したりする事がなくなりますから、狂犬病の豫防等に最も効果が多いのであります。
又交尾期に於ける風教上の問題も解決せられ、自然駄犬の整理も出來、從つて街中で野犬を捕へる必要もなくなり、眞に一石三鳥の好い結果を齎すことが出來るのであります。
然し廣い邸宅で、一方に飼犬を囲内に入れてある事が犯人に解れば、却つて夜盗に乗ぜられる惧れがあるから、どうしても放ち飼ひの必要があると云ふ場合もありませう。そんな場合には仲の好い訓練の積んだ牡犬と牝犬とを飼つて置けば、賊の侵入を防衛するばかりでなく、お互ひの愛情から遠くへ行かずに済むし、それに他人から欺される事も尠いので、警戒犬として好い結果が得られるのであります。
(続く)
警視廳衛生部獣醫課・犬の相談主任 荒木芳藏『近頃被害の多い畜犬の盗難豫防』より 昭和9年