拝啓
楓枝芽ぐむ大陸の春をそよめかす歓呼の裡に新しい中央政府の樹立も目睫に迫り、市民の歓喜と希望に湧き返へる昨今の南京であります。
梅花既に盛りを過ぎ、桃また色付き日に増し春のい吹きが感じられて來ました。
先日は思ひかけぬ協會よりの慰問品を戴き、貴家の御厚配に對し衷心より感謝致します。早速ツルを連れて來て分け與へれば、コリ〃と頭を右へ曲げ左へ曲げて夢中で食べました。
今は早軍犬として立派に訓練の出來たツル號も前線へ補充と成り、各々特意の性能を發揮し、敢然として敵弾雨飛の中を馳駆し目覚しい力闘をする事でありませう。我々は心から其の武運を祈つて居ります。
何れ又、變つた事がありましたらお便り致します。
先づは取敢へず右御禮申上ます。
昭和十五年三月二十三日
支那派遣軍總司令部第○號
辻井中尉
三浦春雄様
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3月23日の犬たち
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