大阪蘆原署で取調べ中の犬泥棒前科二犯山野庄吉が盗んだポインター種牡(時價三十圓)と日本犬牝(時價十圓)の二頭の飼主がわからぬので、何とかして捜してやりたいと考へつゞけてゐた平野刑事が、六月十日朝、ポンと自分の膝を叩いて微笑した。
早速「この犬の所有者は直ちに當署に出頭されたし。蘆原署」と書いた木札をつくつてワン公の首にブラ下げて放したところ、それから二時間ほどして電話がかゝつて来た。
「こちらは大阪府中河内郡巽村相澤俊夫宅ですが、長い間捜してゐた愛犬がたゞいま首に御署の木札をつけ二頭そろつて無事に帰つて来ました。ありがとうございました」とのこと。
平野刑事の妙案がうまく効を奏して、犬は一里あまりも離れた主人の家へ帰りついたのだ。
「今様越前」より 昭和13年
↧
犬帰る
↧