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5月4日の犬たち

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『東葛家畜病院亀戸分院『診察簿 大正十二年六月二十一日以降』より

大正13年5月4日診察 

 

生年月日 大正13年5月4日カナダ生れ

犬種 ブルドッグ

性別 牡

地域 東京府

飼主 久保重五郎氏

五月四日の真晝間の午前十一時頃のことであつた。麹町富士見町五ノ二二文理科大学英語教師アンドリユー・エフ・トーマス氏宅の前方で女の悲鳴が聞えたので、同夫妻がとび出して見ると、一暴漢が若い婦人にけしからぬ所業に及ばうとしてゐるので、早速婦人を救ひ出したが、その暴漢が付近の警察病院向ひ側の露路内に潜んでゐるのを知つて追ひつめると、暴漢はそこにゐた犬にけしかけてトーマス氏に向はせた。しかし犬もさるもの、あべこべに暴漢に噛みついたので、彼は難なく取押へられた。
この犬につかまつた暴漢は小石川區松枝町塚田某(二四)であつた。
「暴漢を捕へた犬」より 昭和8年
 
五月四日アルノ號を帯同せる中島監視員は前半夜勤務者数名と共に六道溝付属地境界線に赴き、付近一圓厳重監視中、遥か前方の江上に浮動し來たる一隻の密輸船を發見したるを以て、監視員一同は直に監視網を移動して彼等の上陸見込地點に急行潜伏し居たるに、間もなく上陸せる八名の密輸者は各自叺を背負ひて監視員潜伏箇所より稍上方を通過せむとす。
仍て中島監視員はアルノ號を放ちて襲撃を命ずると共に、一同亦之に続き検挙に向ひたるが、彼等は當方の急襲に敵し兼ね各自背負ひたる粗塩入叺十五俵を遺棄して遁走せり。
満州国税関監視犬月報 昭和11年
 

五月四日

報知新聞社會議室で家畜週間の催物、報知新聞主催の畜犬綜合展審査委員會、定刻に行つて見ると池田氏は既に來て居られた。此催しは先に警視廳會議室で定められた本年の家畜週間(五月十五日より一週間)の催しとして例へば畜舎の清掃とか消毒とか乗馬行進とか家畜衛生設備の検査とかシネマ、ビラ等家畜に関する一般の認識を高める為めの催しを行ふのであるが、畜産聯盟の一員として、馬産、畜牛、養鶏、牛乳等の組合の間に東京市の或る畜犬商組合も加入して警視廳と結び付き、家業繁昌のためか五月十五十六の両日、九段靖國神社前の廣場に於て、大日本畜犬綜合大共進會といふ名の畜犬展を催し、之を報知新聞社の主催の名のもとに取行ふ事になつたのである。畜犬商組合の責任者は日本橋の坂本保氏である。展覧會の會長は陸軍少将坂本健吉氏(軍用犬協會副會長)を推し、審査員長獣医少将内村兵蔵氏、顧問警視廳獣医課長池上幸健氏、仝農学博士板垣四郎氏といふ顔触れで、各犬種は其種類の團体の審査員が審査をするといふ事でもあり、此前の時事新報社の時よりも用意が整つて居る様に見えたので、将來畜犬團体の聯盟を作る階梯に踏みかける一助ともなろうかと思ひ、我が日本コリー犬協會も参加する事に決定し、池田金子及余の三人が出席したのである。會議は多少の波瀾もあつたが何うやら無事に収まつて、九時過ぎ散會した。

日本コリー協會事務所 枝庵(三上知活)「事務所の日記」より 昭和12年

 

満鐵鐵路總局の警備犬育成所の種犬購買は、阪田主任、市川善七両氏出張、KV各支部、MK支部を通じてシエパード犬優秀犬のみ購買し、他にシユナツア種を試験的使役及び蕃殖の爲め購入し、五月四日無事大連周水子育成所へ繋留した。

昭和14年

 

 

 

平林家畜病院『狂犬病予防注射控簿 昭和十三年十月廿七日以降』より

昭和15年5月4日診察 

 

故安川九州支部長追悼展覧會審査報告

時 昭和十六年五月四日

所 門司市錦町國民學校々庭

「故安川九州支部長追悼のため本展覧會を開催された事は誠に意義のある企である。氏は最初KVを脱しJSVに加入された人である。然し氏の犬界に残された業績たるや當地方に於て不滅のものが有り、両團体を通じて恩顧のある人と聞いて居る。

本追悼展覧會は初め氏の居住地、福岡市に於てJSV會員たるとKV會員たるとを問はず、且又登録犬たると否とに不拘少くとも安川氏を知る者が気軽に集つて其の霊を慰め度いといふ美挙から本年一月早々決定。二月にはJSV會報並に犬界唯一の雑誌犬の研究誌上にも發表されて居たものである。

然るに開催日の切迫せる二週間前に至り、突如KV九州地方支部の主催として前代未聞の春季第二回目の展覧會を、然も安川氏追悼展と同日、同場所に於て開催するといふ事が發表された。 勿論斯の如き不穏當なる企に對し、賢明なるKV理事者が承諾せりとは断じて信ぜざるも、常に犬界に害毒を流す一部徒輩の横紙破り的な意見に迷はされて、此の企を決定せる當事者の責任は回避し得ない筈である。 然も其の理由として挙げられたるものは、‟福岡はKVの縄張であるからJSV展は遠慮してほしい”と。少くとも國民教育を受けた者は嘲笑せざるを得ないであらう。世は既に明治維新を経て大正昭和へと文明的進歩を續けて居る。 封建時代の陋習が今猶當地方に存在せるものとすれば、我國生命線の先陣を承る九州男子の面目果して那邊に在りやと叫ばざるを得ない。

幸にしてKV小川大阪支部長、山野審査員とJSV西脇大阪幹事長、細谷審査員の四氏の間に於て、“KV側は本展覧會を無期延期す。強ひて開催するならば審査員を送らざるは勿論、該當事者を除名するも差支なし。JSV側は其の意を諒として場所を変更され度い”と云ふ諒解成立に依つて不祥事も惹起せずJSVは門司市に變更し無事に終了したのではあるが、之れによつて故安川氏追悼展の意義は全く半減され、且つ最も表彰され來つた九州男子の、否日本民族の美風は完全に破壊されて終つた事は否めない。

縄張だと尊重して居る内にも我々シエパード犬界は日進月歩最高峰へと直進して居るが、憐むべき福岡犬界は封建思想の爲め取残されて、次第に低下するであらうと心ある者は慨歎せずには居られない。展覧會當日はJSV展にも似合ず前日の豪雨も止み、暑い程の好天氣で和氣藹々として終了したが、当日はKV監視員が出張して‟同展への出陳者には今度米を配給される場合にも米を與へない”といふデマが盛に傳へられて居たが、果せる哉約30%の缺席犬があつた。恐らくはデマに恐れたものだらう。 元來米が犬の主食物の様に思つて居る爲めにこんな間違も起る。米は犬に取つては最も悪い代用食である。 シエパード界は斯く叫んで居る。「先づ原産地區獨乙を見よ!我々シエパード犬は米で育てられて來たのではない。日本へ來て初めて日本人がお臺所の都合上好まない飯に肉や魚を入れて空腹の我々に無理から食わせて居るのだ」と。 こんな食事で良い犬が出來る筈はない。本國でジーガー、ジーゲリンを生んだ両親が双方共日本へ來て生んだ直仔でさへ非常な差があるではないか。 正に二十年を経過せる今日に於ても、日本で出來た犬で唯の一頭でも本國のV賞犬に匹敵出來るものがあるのか。これ位の事が判らねば餘程日本人もノールスだね! 戰線からの通信には何と書いてある。“米なんか炊いて居られない。飯と汁で育つた犬は駄目だ。犬は案外弱くて使へない”と度々云はれて居るではないか。當然だよ!仔犬から成犬迄……平常から戰線迄、一定の飼料を作る事が先決問題だよ! 我々は代用食を占取して犬に食わすより適當な飼料を考案して米は戰線の兵士へ、銃後の産業戰士へ、成長期の第二の國民へ與へるべきではなかろうか?彼等は皆空腹で困つて居るではないか。犬を飼つて居る者の務として、これ程大きな問題はない。 一刻も早く飼料を完成する事は飼主の責務だよ。何も知らない役人連を偽つてこの人間に貴重なコメを詐取して居て恥ぢざるは愚か、威張つて居る輩があれば、それこそ真に非國策的な、非國民的な、賣國奴にも等しい奴であるよ! 飼主よ、も少し賢くなれ。社會よ、も少し真實を究めよ!然らば偽る者もなければ偽はされる者もなくなる。而して我々も、適當な食事にありつけて出來る丈けの職域奉公が出來る。こんな嬉しい事は又となからう。ワン、ワン、ワン」

鈴木正男 昭和16年


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