河瀬文一氏
名古屋の愛犬家である氏は好きなデーン種の素晴しいものを入手するため、今度獨逸に行つた森内章介氏に依頼して、本場から素敵なのを購入して連れて來て貰ふことにした。なほ井上正夫氏愛犬文子も同氏の犬舎に生れたものなので、井上氏の名古屋出演を機會に九月七日名古屋得月楼に井上氏及文子の歓迎會を催した。
昭和9年
折しも飛び來る機銃彈、あはれ朝緑の全身數箇所を貫きしかと、元より剛氣の朝霧は、尚も屈せず敵兵の、戎衣にかみつき引裂きて、くはえたるまゝよろめきつゝ、かこみをぬけてたど〃と、味方の陣にかへり來て、宮田軍犬兵の顔を見つ、物言ふごとくなきつれば、宮田は之をいたはりて、朝よ、よくも傷手をかまはずに、けなげの働きして呉れしぞ、氣落ちをせずに隊長に、此有様を報告せよと、はげまされよろめきつ、隊長の許にうなだれければ、隊長これを見給ひて、よくもかく迄働きしよな、人も及ばぬ其功績、滿足に思ふぞと、朝緑の背をなでつゝいたはれば、僅かに尾をふりてかなしげに、たゞ一聲を名残りとして、眠るが如く息たへり
朝緑・オカモトDKZ2 昭和12年9月7日、西張家濱で伝令任務中に被弾戦死。