『東葛家畜病院亀戸分院『診察簿 大正十二年六月二十一日以降』より
大正12年9月27日診察、10月4日逃走、12月1日捕獲
昭和十年九月二十七日起案
昭和十年十月七日 海軍大臣旅順要港部第一七二号寄贈物品受納ニ関スル件認許ス但シ。
軍用犬及犬舎ハ砲術長主管艦営需品定額表外備品トシ軍用鳩ハ海軍軍鳩実験研究用応役鳩トシ整理スベシ。
(終)
官房第四一八七號 旅順要港部第一七二號
拝啓
暑ゐ中支も昨今朝夕大變涼しくなりました。
内地も秋氣の頃と御察します。皆々様には御變りありませんか。私も御蔭様にて元氣に中支の南方第一線にて軍務に邁進致しておりますれば、他事乍ら御安心下さいませ。
過日御尋ねのリンデ―號の様子、一寸御報せ致します。
昨日公務のために〇〇本部に参りまいたる所、軍犬班教官殿に御目にかゝりました。教官殿もリンデ―號に對する御貴殿様の御聲援に非常に感謝されておりました。係兵は前の森下君で變つてはおりません。
リンデ―號は其の後益々元氣にて縦横に此の中支の山奥の戰線に活躍を続けております。特に最近は〇〇から〇〇への約四〇〇〇米の中野連絡勤務に其の威力を最高度に登揚しております。其の間、殊勲に相當する手功があつたとの事ですが、詳しくは書く事が出來ませんのが殘念です。
教官殿も大變喜んでおられました。
何れ其の事は教官殿より御通知される事と思ひますが、最も優秀犬だと誉められてゐましたので、私迄嬉しく思ひました。以上の如く、リンデ―號は勇士に劣らぬ大活躍を續けてゐますから、どうか御安心下さい、との御話でした。
私もリンデ―に會ひたいゐと思ひましたが、リンデ―は前に申した所で勤務中で會ふ事が出來ませんでした。が、教官殿より御誉めの言葉を受まして大變嬉しく思ひながら此の便りを書いてゐます。
今後も一層リンデ―號への御聲援を御願ひ致します。
申しおくれましたが、御舎弟光男君も名誉の應召されましたる由、御一家は勿論國家のために非常に喜ばしく御祝詞申上げます。
先づは取敢えずリンデ―號の活躍ぶり第一報申上げます。
最後に皆様の御健康と御店の御隆昌を御祈り致しております。
では亦、次便にて。
九月二十七日 中支戦線にて 峯雲軍曹
野間 齋様
「大陸便り」より 昭和15年
平林家畜病院『狂犬病予防注射控簿 昭和十三年十月廿七日以降』より
昭和16年9月27日診察