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Channel: 帝國ノ犬達
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10月1日の犬たち

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犬の狂犬病のため被害者が七十三名もあつたといふお話です。
大正十年十月一日午後のことで、小石川區富坂警察署管内に起つたことです。同區氷川町野口某といふ會社員の無届犬(※警察への未登録犬のこと。当然予防注射もナシ)が突然狂犬病となり、自家の妻君を噛んでその儘外へ飛び出しました。
恰度往來が混雑し、砲兵工廠の職工が帰宅する時刻なので、犬は行き當りバツタリに喰ひつき、富阪署管内から駒込、巣鴨、大塚と四ケ署の警察管區を荒し廻り、被害者實に七十三名にも達しました。この爲め街は大混亂を呈し、通行人は姿を消す、電車は止る、決死の青年團が犬を追つてくり出すといふ騒ぎでありましたが、大塚署の君塚巡査部長外二名の警官が抜剣で漸く狂犬を退治し、さしもの騒ぎもやつと治つたのでした。
この退治された狂犬は素々野犬で、附近に徘徊するのを野口某氏が可哀相に思つて自分の畜犬にしたもので、それがこの様な騒動を惹き起し、主人公の恐縮たるや見るも氣の毒であつたと云ひます。
早速七十三名の被害者に對して治療代や日當迄支拂つてそれが積り積つて二千數百圓に上り、貯金や金策では未だ金が足りず、全財産を抛つてやつと支拂が出來た始末。近所の人にも顔向けが出來ないとあつて、ある日夜逃げしてしまひました。
其頃狂犬病に對しては比較的無関心であつた一般民衆に、一大騒動を與へましたことは申す迄もなく、狂犬病流行史上特筆大書するの値あるものであります。
警視廳衛生部 荒木芳蔵『狂犬病奇談』より

 

日本シェパード犬協会 中島基熊
昭和二年の四月、上野に萬國博覧會が開かれた時、同會場で日本最初で而も最後のブルドツク単獨の共進會が開かれました。これは主に久保氏と私がやつたもので、出陳犬は四十頭あり、廣場の両側にづらりと列べたものです。恐らくこの時がブル流行の絶頂でしたろう。
日本テリヤ研究会 鶴見孝太郎
その年の十月一日、中央畜犬協會主催第十一回共進會にも、ブルドツクが三十二頭出陳され、近來にない盛況でした。この時のブルドツクは、単に數が増加したばかりでなく、その質に於ても著しい進歩改良の跡が見えてゐました。
中島
私はホワイト・ナイトといふ、純白の素晴しい奴を、福田氏と共に輸入したが、この犬は途中ポートサイドで斃れてしまひ、それから断然ブルをやめてシエパードに轉向しました。これを殺したのは、全く美人に死なれたやうな氣がしましてナ。 

「ブルドッグの華やかなりし流行のあとを語る」より

 

警視廳の牡犬去勢手術は、去る十月一日から實施され、二十日までに既に二百頭余りの去勢を見た。去勢施行の日割に當つた警察署構内には、十二畳敷きの天幕が置かれ、犬は診察後人夫の手で、臺の上に仰向けにされ、四肢を開いて、前肢は前肢、後肢は後肢で臺へ緊り結ばられ、胸には臺からバンドを締めつけ、これで犬は四肢を開いた儘全く動けなくなつてしまふ。
手術中、喰ひつかれては大變だから、口へは口輪を嵌めること勿論で、犬は暫く閉口の體だ。
去勢は警視廳出張の技術員の手により行はれるが、まづ毛を刈り、消毒を施し、局所だけ出る布をかけ、いよ〃メスが閃いて手術に取掛る。
手術の方法は血管と精系を結索して、精巣を割去するやり方で、出血は案外尠い。創跡の始末は、態と縫合しない方法によつてゐるため、一切縫ひ針等を用ひず、薬によつて處置をつけてをり、手術後の出血等も殆んどない。
この手術に要する時間は、二、三十分間で易々とやつてのけられるが、用意は周到なもので、技術員の外に獣醫の助手が一人、これは犬の脈を診たり、その他犬の状態を見てをり、傍には人夫が二人控えてゐると云ふ物々しさである。
手術を終つた犬は、何の苦痛の状態もなく、飼主に曳かれて、ピン〃帰つて行く。心配した程のこともなく、案外の面持ちで帰つて行く人が少なくなかつた。
警視廳に荒木獣醫を訪ふと
「手術後の状態は、實際に観察してみるに、最初一、二日は元氣も食慾も多少減退しますが、創面は四、五日で殆どよくなり、普通一週間で全治の状態となります。中には多少熱が出たり、創面が脹れたりして、一週間以上異状を呈する犬もありますが、永くて十日で完全に治つて仕舞ひます。
去勢を受けに來る方の中には、手術の様子だけ見て、こりや可哀想だ、止めて置かうと転向しかかり、いや簡単で、然も犬に苦痛を與へやしないからと、係りに薦められ、そんならやつて見ようか、と手術を受け、思つたより簡単で、犬も平氣だと喜ばれる向もあり、序でのことだ、もう一頭牡がうちにゐるが、それもやつて貰はうと、直ぐ連れて見えたやうな方もありました。
こんな楽なものか、これで大丈夫なんですか、と念を押して歸られる方などもあつて、一般から非常に喜ばれてゐる有様です」
警視廳の去勢後の成績

警視廳の牡犬去勢實施は昨年十月一日より行はれ、申込犬數千頭に達し、着々手術を進めてゐることは既報の通りであるが、年内にまづ五百頭に達し、残り五百頭は昭和十一年廻しとする豫定であつたが、犬自體に色々異動があつたため、年内に豫定頭數に達することが出來ず、三百頭を以て、一とまづ打切りとし、本年は一月中旬から又復手術を開始、目下施行中であるが、本年度内(三月まで)に七百頭の去勢を行ふことになつてゐる。最近警視廳では、去勢實施後三ヶ月餘に及ぶので去勢の實施を見るため、既遂去勢犬百頭について、去勢後の状態は果して良好であるかどうか、統計の作製を急いでゐたが、この程愈よ統計が出來上り、發表の運びになつた。

その成績は次に示す通りであるが、結果は極めてよく、去勢前は興奮して咬み付くやうな犬も咬まなくなり、番犬は却つてその勤めに忠實さを増し、手術のために健康を増進した向もあり、又去勢のために變化を受けず、依然として猟犬の役に立つ等、吉報が多い。

「警視廳 の去勢を見る」より 昭和10年
 
内地から交代部隊が到着したので十月一日天津に引上げました。現在の天津はもう平静なものです。
近日我隊は〇〇方面へ前進することになつてゐます。戰況は却つて内地の方々がよくお判りだらうと思ひます。
我々は一部分のことはよく判りますが、全體のこと、殊に上海方面のこと(※第二次上海事変)は判らないので困ります。
内地も動員々々でなか〃さわがしいらしいですネ。
犬界の其後は如何ですか。先日JSVが大阪で展覧會をやつた筈ですがどんな結果でした。
いつも犬の研究を送つて頂いてなつかしく拝見してゐます。
一昨日も十一月號落手しました。有難うございます。
こちらの犬界のことも少し調べて通信したいと思つてゐますが、まだその暇がないので殘念です。
シエパードは随分たくさん目につきますが、いづれもあまりよいものはゐないやうです。又化粧(※体色)は申し合したやうにシルバーグレーばかりです。
軍用としては主として警戒に使つてゐます。豊臺では食糧の集積場で、夜間盗みに來た支那人をうまくつかまへたこともありますが、まだ〃間に合ふといふ程のことは云へないやうですが、その方面では相當成績もあげてるらしいです。
軍用犬としての活動状態等、この機會に御通信しやうと思つてゐますが、もう少し待つて下さい。
犬界の人々にも、こちらの話を通信しやうと思ひ乍ら、その餘暇がないので皆失禮してゐますから、よろしくお傳へ下さい。
北支派遣軍山口部隊 磯谷道良「北支より」 昭和12年
 
 

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