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Channel: 帝國ノ犬達
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12月10日の犬たち

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私がハチに本當に関心を持つたのは、三年前に新橋の僚友が遊びに來て、「大變いゝ犬だ。どこの産か知つてゐるか」ときかれ、「土佐犬だらう」と云ふと、「馬鹿な、これは立派な秋田犬だ。大事にせよ」と云はれて、それから関心を持つ様になり、由來や履歴を知つたのですが、たま〃昨年(昭和8年)の十一月、九州八幡製鐵所の中村と云ふ人から私あてに一圓五十銭送つて來て、これでハチに何か美味しいものを食べさせて呉れとのことでした。
しかしハチはその前から既に毎日御馳走攻めの有様で、単に美味しいものを食べさせるのは無意味である。なんとかこの好意を有意義に生かす方法はないか。善行美事はとかう葬られ勝ちであり、殊に停車場の人混みの場所では我勝ちの浅間しい行爲を屡々見せられるので、いろ〃と考へた揚句、知合ひの新聞記者に相談しますと、それはいゝニユースだ、新聞に發表しやうと云ふことになつて、ある通信社から各新聞に通信を廻したので、各紙一斉にこの記事がのせられました。
それからは毎日のやうに驛長室にハチはゐないかと尋ねて來る人があり、ハチを見ると「オゝハチゐたか」と恰も舊知に會つたやうに懐しげに話しかけてゐる。愛犬家の心理と云ふものは實に美しく不思議なものだと思ひました。
十二月十日には小學四年の女生徒が貯金箱を持つて來て、「これをハチにやつて下さい」と云つて、名も學校も告げずに去りました。中を見ると五圓六十七銭もある。いよ〃大變な事になつたと思ひましたが、かうした同情金が毎日のやうに私の机の上に集つて、次第に金高が増して行くので、この金で一つハチの銅像を建てたら、ハチの話は實在のことであり、人の心を柔げるのに何よりよい教訓にならうと考へ、ハチの舊主人の上野博士未亡人や日本犬保存會の方々、その他上野動物園の古賀園長や、澁谷の地元の人達の御賛同を得、帝展審査員の安藤照氏が心よく銅像製作をお引受け下さつて、こゝに目出度く四月櫻の花咲く頃、ハチの銅像の除幕式を行ふまでの段取りになつたのです。
吉川忠一『澁谷のハチが銅像になるまで』より 昭和9年

 

 

午前九時より大成小學校に於て蒙古聯合自治政府に依る軍犬購買實施す。
購買官は警佐村上末吉氏外三名、厳重な検査の結果、應募総数〇〇頭の中より使役犬〇〇頭、種犬〇頭が合格した。
尚、同日獣醫部、今泉、脇野両大尉も來場、熱心に参観された。
昭和16年12月10日


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