戦時を通してライバル関係にあった保守派の日本犬保存会と革新派の日本犬協会。
日協が縄張りとする関西地方では、誹謗中傷や会員の奪い合い、相手の展覧会へ潜入してのスパイ活動など、日本犬そっちのけで不毛な抗争が繰り広げられました。両者の競合は関西犬界を前進させるどころか、何のレガシーも残していません。
それらの醜態ばかりが目立ちますが、当然ながらマトモな活動もやっております。
※記事中に出てくる美津濃運動店とは、現在の大手スポーツ用品メーカー・ミズノ株式会社です。
一、日本犬大行進
「日本では日本犬を」
このモツトーが叫ばれて居ることは可なり久しい。而も未だ實行が其に伴はない感がないでもない、と云ふので日本犬協會兵庫縣支部では神戸新聞社後援の下に三月二十二日午前十時より我國最初の日本犬大行進を擧行して此犬種に對する一般の再認識を喚んだ。
此日定刻指定地點である神戸市東遊園地に参集した犬達は、大阪本部から應援の爲め來神した十數組を始め、地元、其他縣下各地支部員所有の優秀犬等百余頭で、人と犬とで流石の遊園地を埋め盡す盛況であつた。
斯くて午前十一時、東遊園地を出發、神戸少年團ラツパ隊を先導に、此行を祝福するかの如き陽光を浴びて、生田神社前、元町通、市役所前を經て、湊川神社に参拝。有馬道筋、湊川新開地を行進、湊川公園に到着。
一同休憩晝食し、神戸新聞社寄贈の参加記念メダルを交附。和氣藹々裡に思ひ思ひに歡談を交へ、近頃稀に見る盛會を呈し、午後二時散會した。行進の道筋兩側には折柄日曜の行樂に出浮いた人達が黑山の堵列を築き、至る所驚嘆、感嗟の聲を擧げて、何れも今更に日本犬の颯爽たる雄姿に禮讃を捧ぐるのであつたが、斯くして此日の大行進は遺憾なく其の目的を達成し、有意義に終始したことは主催者側の滿足のほど左こそと察しられるものがあつた。
二、日本犬耐久力考査
日本犬保存會關西支部では關西に於ける最初の純日本犬の耐久力並に走行力試驗を三月二十一日新京阪沿線長岡競馬場に於て擧行した。此日生憎朝來細雨霏々として何時晴れるべくも見へず、折角西下せられた審査長(東大教授)板垣博士等も空しく引上げられるのではないかと、一時頗る憂鬱を感じさせられたが、午前十一時頃より漸く雲の絶間が出來、晝飯後には全く晴れ上つたので、午後二時から彌々審査を開始し午後五時半終了したが、成績は翌二十二日の夜大阪淀屋橋畔美津濃運動店階上にて發表されることゝなつた。
翌日二十二日は午後八時より前記の通り美津濃で懇親會が開かれた。來會者二十余名、審査長板垣博士から前日の成績の發表があつた。それによると、走行方はシエパード犬に比して體型の關係上やや劣るやうに思はれるが、耐久力、耐久余力、回復力、白血球、赤血球などの點では斷然好成績を示し、いよ〃日本犬の將來に有望な期待が掛けられる譯である。
入賞犬は左記の通りである―。
第一席 チイ號 滋賀縣 富川日本犬愛護會
第二席 イチ號 京都 里田原三氏
第三席 ハル號 京都 井上和三郎氏
第四席 太郎號 京都 脇坂音五郎氏
第五席 那智號 京都 〃
第六席 太郎號 京都 萬玉正吉氏
第七席 電光號 京都 平田泰英氏
第八席 赤號 大阪 堀端金兵衛氏
斯くて此所にも亦た日本犬の有能性が明に立證されて、所謂「日本には日本犬」を飼養するのが日本魂に生きるものゝ責務であることを痛感せしめたのであつた。
『春を招く日本犬の二大活動・名犬オンパレードに剛犬耐久力テストに』より