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昭和6年のクリスマスと猟犬界近況

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コロナ騒ぎで静かだった昨年末とは一転、今年のクリスマスは会議や面談や面接やお客様からのクレームや「年末ノルマ達成のため助けてください」と泣きつく飛び込み営業や上司からの無茶振りが次から次へと重なって、へとへとになって帰宅して、カツカレーを食べながらNORADでサンタを追跡しておりました。寂しい。

 

 

今年も、はや、クリスマス・トリーに白い綿の淡雪を見る期節になつた。そこあたりの學校からは「年のはじめの……」豫習(コーラス)が聞えてくる。デパートの賣場に、雉、鴨、鸐などが絢爛たる彩りを添えるのもこれからである。

あわたゞしい師走は、また、獵には最も油ののりきつた書入れ月でもある。

水・陸・山・野、何れの方面にも、亦いかなるゲームにも、ひとたび機會さへ摑めば、豊にして朗かな獵趣の展開を見得る。ゆくとし可ならざるなき獵の好期節である。

この一日からは鹿・猪が解禁されてゐるのも愉快である。

獵のためにビジネスを放棄してはならない。また師走のもろ〃のゲームは日曜を忘れて狩るほど一時を争ふものでもない。

しかし、眞に忙しい寸暇を差繰つて獵野に立つ、その心持から滲み出す滋味には忘れられないものがある。機敏にして剛健なる精神はかうした間に養はれるのでないかと思ふ。

池内興方『藏晩の言』

 

其後、體も漸く恢復致候まゝ、昨日は仔犬の訓練にて近所の鶉撃ちに出掛け七羽を獲て歸宅仕候。當地方の鶉獵は例年ほど有望には無之候へ共、來月初頃より追々佳境に入り申すべく候。

昨日は英ポと英セツターの一代雑種仔犬二頭(五ヶ月)に最初の野外鶉の實地訓練を致候處、牡の一頭は完全にポイントし親犬と競争の状態にて興味深く相覺申候。

埼玉 N氏『埼玉より』

 

小生は第一回のマグレ當りに氣を良くして十三日再度出かけ申候。もとより柳の下に鰌はゐない積りなりしが、十羽は見られると思ひ候通り十一羽見て三羽せしめ、三羽は重傷患者―収容不能。犬がわるい爲め―、にて何れは山の肥料!

惜しき事に候。

一羽は足をぶら下げて飛び去り輕症入院ものを作り申候。

第三回はI兄の案内にてK島に出かけ申候。前回には二十羽を發見し、彈丸不足を來し、僅に二、三羽の収穫なりしと聞き、大いに勇み立ち出かけ候も、これも柳の下の鰌式にて、二組に別れて狩り立て各組五六羽づゝの發見數にて合計三羽の収穫。

第五回はE島に朝飯前の運動氣分にて出かけ、幸ひに一時間にして雌一羽せしめサツサと引揚げ申候。

愛犬は一は老齢、一はフイラリアにて目下注射中。

K島にては日が暮れて大きな落伍犬を背負ひ、まるで旅役者のサスライ式にて情けなくも亦おかしく候ひき。

一言毒舌を呈し候。

兄の勇姿を度々拝見候も、どうも帽子の山の低きが玉に瑕と存候。あれでは小生はお嫁さんに参らず候。

然し中折形の帽子の方は如何にもスポーツ好みに相見え候。タトヘ色は黑くとも娘位はきつとお嫁に來るべく候。

十二月一日午前八時五十分(船中にて)

兄に贈る雄雉を得ました。昨日雌雉好みの帽子が來たので今朝は大奮發、起床。

あの帽子なればキツト雌雉の群に逢へるものと大勇み、犬も若犬を連れました(牝)。然るに何んぞ計んや、美事な雄。

……最後の稲田に向つてセツト!ブル〃……、パン、……バサリ!

あまりに簡單な一幕ではありましたが、獵人と獵犬の爲すべき總ての條件を具備してゐた點百パーセントでした。

これが例の朝飯前の仕事です。本獵期二回とも成功です。

この雉はまだ温い内に汽車に積み込まれます。神戸へ着いた時もまだ温いでせう。呵々。

廣島 F氏 『朝飯前の雉獵』

 

富士國立公園決定最初の施設として設立した富士裾野山梨縣南都留郡鳴澤村外四ケ村區内の三千餘町歩の特設富士獄麓獵區は四日、伏見宮博義王殿下の御來場を仰ぎ華々しく開場された。

加藤厚太郎伯はじめ各地から押かけた天狗連は、豊獵に相當の獲物があり、開場第一日は大賑はひを呈した。

宮殿下にはお付、愛犬を從へられて多數の獲物にいと御滿足遊ばされ、夕刻御歸京遊ばされた。

『岳麓獵區開場』

 

先づ廣潤たる野外に一歩を踏み出さんか、そこには山あり谷あり野あり、田圃あり、更に畑あるに及んで、既に随所にナンセンスなる獵話が見出されるのであります。

瞬間、すき焼!鴨團子!晩餐の細君の笑顔が脳裡をかすめることであります。

ところが、東京附近のねぶか畑では、ウネを丹念に高くしてあり、三四尺も掘り下げてあるので犬でも容易に越えられない。まご〃し

てゐる内に折良く?其處で百姓仕事に精を出してゐた爺さん、ちらと横目でこいつを見てとるや、さあ怒るまいことか、怒鳴るまいことか……。

當節、農家の中でも都會附近の小地主となると、土地の値上りから近年なんの事はなく、小ブル階級に属してしまひ、十年程も前に都會の人達になつかしまれた、あの素朴さなどは藥にしたくも見られない。

他人の作物植ゑつけある中で、銃獵の出來ないことは判つてゐるのではありますが、然るに此の貴重なる獲物は遂に思ひがけない數奇の運命を辿つてあえなく彼が肥料車に積み去らるゝ事となつたのであります……。

而も、件の鴨は、晩餐を待つまでもなく細君の手を煩はさずして、早くも忽ち葱の下積にならんとは……。

是れ眞に、諺に背かず葱をしよつた鴨にされた實話であります。

これは又、或る獵場に近い山里の荒寺の裏の小藪には、年々定まつて雉子が仔を孵すのである。それを近所の腕白共に教えられるまゝに、こつそり犬を入れてドカン、とやると、音に應じて待ち受けたかの如く、其處の和尚がねぢ鉢巻で飛んで來る。

偖、獲物を持つてゐるようものなら最後、それが鴨だらうが鶉だらうが問ふ所ではない。忽ち證據物件として有無を言はさず押収される運命にある。

これも神社佛閣の境内なる禁止條項の嚴存する以上、罰金が惧ろしいのであります。

其上、生れて以來、親の死んだ時でもなければ、頼まれても耳を傾けたことのない坊主の説教を平身低頭して拝聴させられる。何ともいめいましい限りであります。

それにまた、お伴に立つた獵犬は、犬殺し諸君が不景氣を血眼に表はした没義道な横行を、どうやら免れはしたものゝ、半歳の辛棒が運動不足の結果になつて、あはれ却て豚太りに肥えふくらんで當分役に立ちさうもない。

などゝ云ふに至つては、是又少なからずナンセンス味をそゝる事柄であります。

逸名氏『鴨が葱を脊負つた話』

 

鴨の着く洲田の暗となりにけり

鴨の着く刈田の水の濁り哉

池尻に殘れる鴨や山に見る

犬を括つて鴨着く池を覗きけり

鴨立ちて池引潮となりにけり

見張置いて浮寝す鴨の百羽哉

漕ぎ寄する船や見張の鴨敏き

射止めたる鴨仰向や波に浮く

谷川青水『鴨十句』

 

シェパード界は9月に起きた満州事変で大騒ぎだったのに、猟犬界はマイペースだったんですねえ。


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