生年月日 不明
犬種 ジャーマンポインター
性別 牝
地域 兵庫縣
飼主 土師参五郎氏
昭和四年の秋、そゞろ歩きの夜更くる頃に、追うても〃付いて來るものだから、家に連れ歸つて置いてゐた。
當時、パピー、メリーの二匹の居る時だつたが、仲よくなれて歸らうともしないから、ずる〃に家に飼つてゐた。無論其筋には届けて置いたが……。
未だ殘んの獵期であつたから、よく山へも川へも連れて行つた。餘り捜索はしなかつたが矢先きには早い犬だつた。
交尾が來たので、大枚三十金を奮發して、市内の××で獨ポをかけてやつたが、家で仔を産む間も待たずに、僕が散歩に連れてゐたのを見付けたのか、其の舊飼主がやつて來て、「犬を返せ……」と談じ込んだ。
「警察へ届けてあるから手續きをして來い」とは云つたものゝ、別に飯代などゝケチな了見からではないのであつて、只だ物の言ひ様がグツと來たまでだから早速返してやる事にした。
若しいゝ仔犬が出來たら一匹呉れるやうにと頼んで置いて……。
必ず改めてお禮に來ると云つて引取つたが、其後何んの音沙汰もない。又ペスの姿を見たこともない。
淡い〃、吾家の犬だつた。
『犬の素描 吾等の愛犬(昭和6年)』より