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Channel: 帝國ノ犬達
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過渡期の犬の展覧会 昭和4年

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犬の展覧会が盛んになった大正時代は、ペット商が袖の下で入賞犬を決めたり、順位を巡って闘犬家が殴り合いを演じたり(人間同士の)、なかなかのカオス状態でした。

そのような状況にウンザリした愛犬家たちは、同好の士による畜犬団体を結成。愛犬家主導での、品種別展覧会への脱却をはかります。

昭和2年に秋田犬保存会、昭和3年には日本犬保存会と日本シェパード倶楽部(日本警察犬協会と日本シェパード犬登録協会のルーツ)など、現代犬界へ繋がる団体も次々と誕生しました。

満州事変以降になると、商業主義との住み分けは更に徹底されていきます。帝国軍用犬協会や日本シェパード犬協会では、ペット商の会員参加を拒否するまでに至りました。

ドッグレース事業へ走った満州軍用犬協会という例外はともかく、斯様にして犬界は健全化の道を歩んできたワケです。

大正時代から満州事変へ至る過渡期には、どのような問題提起がなされていたのか?というお話を。

 

 

畜犬共進會之れは本會が始めて實行したるにはあらず、其數年前より開かれたる事あるも、十餘年間毎年確實に開催せるは僅かに本會あるのみ。

今日に於ては漸く同數は兎も角十數ヶ所に於て開催せらるゝに至れるは之れ犬界の進歩にして、吾人の欣快とする所なり。

大に之れが奬勵の道を講じ、多々益々盛んならしめられん事を切に希望する次第であり、然りと雖も無意義に之れを開催するを以て犬界は發達すべしとは惟思せず。

關係者の共に考慮し、研究し、將來益々發達すべき彈力を失はざる様注意すべきは言を俟たざる事と思ふ。

然るに近時各地に於て開催せらるゝ其成績を見るに、中には百頭の出陳犬中九十頭以上も最高級賞を與へ居る者あり。此の如きは共進會の意義を解せざる者とは云へ、犬界の進歩に害毒を流す以外有害無益の事と思ふ。

おそらく如何に進歩せりと云ふ先進諸國は勿論、世界中あらゆる共進會とか品評會とか名の付く催しに於て此の如き亂暴なる授賞方法を行ひたる者あるを聞かず。

若し現在の状態に於て進まんが其地方は遂には小鳥以上の悲惨なる結果を生ずるに至るべく(※当時、小鳥の飼育ブームがありました)、誠に寒心に堪へざる次第である。

畜犬共進會の根本の目的たるや畜犬の改良發達を圖るにあり。優秀犬の何たるを知らしむるにあり。飼育の改善に注意力を養はしむる之れ等が主なる目的であらねばならぬと考へる。

畜犬に關係ある者、自己目前の都合上又は一時の座興の爲に將來の方針をも考ふる無きに於ては、遂には一時的流行として消滅するに至るべきは明かにして、今にして改めずんば再び立つ能はざるに至るべし。之れを黙視するは畜犬界の爲ならざるを思ひ、識者の一考を希ふ。

 

華蔵界能智『畜犬共進會の意義を論ず』より

 

畜犬共進会や日本ケンネル倶楽部のような「犬なら何でもあり」の同好会すら次第に淘汰され、満州事変以降はシェパード、秋田犬、甲斐犬、紀州犬、北海道犬、柴犬、闘犬、コリー、エアデール、狆、ワイヤーヘアード、スコッチテリア、日本テリア、ドーベルマン、ブルドッグ、ボルゾイ、グレートデーン、猟犬(ポインター、セッター、ビーグルは全猟系の団体に統括されています)、サモエドなどの愛好団体が雨後のタケノコの如く乱立する全盛期が到来します。

しかし太平洋戦争前後から衰退期へ突入。昭和18年のスピッツ団体結成を最後に、近代日本犬界は崩壊しました。


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