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Channel: 帝國ノ犬達
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日本テリア育仔日記 昭和11年

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何回仔犬を育てゝ来ても、前回には幾日目頃から補食を始めたのか、幾日目ぐらゐに駆蟲剤を與へたのか、さうした肝要な事柄も、兎角忘れがちになるものらしい。
担任の家族のものから、その都度、屢々かうした相談を持掛けらるので、memoの意味で、育仔日記なるものを作らせて、それに極く微細なことまで書き留めさしてみた。
育仔日記といつても、期間は、仔犬が生れてから、完全に離乳するまでの、約八週間で、この育仔日記を基礎として、演繹的の註釈を試みてみたいと思ふ。犬種は日本テリヤである。
日本テリヤは今回は一頭だけのお産だつたといふやうな話も度々耳にすることであるが、大抵の場合、一貫目内外の牝犬で、二頭か三頭の仔犬を分娩するのが普通である。概して餘り多産ではない。
稀には五頭も七頭も分娩する牝犬もあるが、さういふ多産の犬は、自然幾分型も大きい様である。併し余程後の管理が旨く出来てゐないと、次回のシーズンには、折角交配をさせても、受胎不能に陥るやうである。
兎に角、この育仔日記は、普通の出産率を目標として、先づ私のハウスで、三頭の仔犬が生れた時の分を選んで記載することにしたのである。
それから、表に示した仔犬の體重は、私が三回に亘る育仔毎に量つてみた體重と、それらの乳犬が、生後満一ヶ年になつた時に量つてみた體重の成績(それは日本テリヤ倶楽部のスタンダードに明記された五瓩の理想的體重にいづれも匹敵してゐた)を参酌したものであるから、之を基本的體重と解して頂いても間違ひあるまいと確信するものであることを付言して置く。


犬


乳仔期 第一週
一日
各仔體重(単位匁)
A 四一.〇
B 四六.〇
C 四七.〇
平均 四四.六
摘要
午前一時、三頭の仔犬を無事産み終つたので、特に清潔にせる別のハウスに母仔を収容し、専ら母犬の安静に努めると共に、仔犬が母犬の下敷にならぬやう注意し、かた〃仔犬が平等にお乳につくやう介添してやる。娩髄は二頭分を取除いたので、母犬の食事として、朝夕二回、鰈又は生節を入れたるお粥を與へ、その食間には、牛乳一合を少量宛数回に分ち飲ませる。
(註 仔犬の犬名を仮りにABCとす。ABは牡、Cは牝である)
二日
三仔の臍の緒全く脱落し、極めて元気である。母犬排尿の節多少の下り物が混るのを認む。
母犬の食事前日と同じ。
三日
乳量豊富の為か、三仔は小さい赤い舌にて乳首を巻き、旨さうに咽喉を鳴らして乳を呑む。母犬の運動不足を憂ひ、獣医より適當なる消化剤を貰ふ。母犬能く安眠す。
母犬の食事、前日と格別変化なく、晝、鯉の味噌汁をつくり與ふ。
四日
桜色を呈した仔犬の可愛らしき鼻先が、點を打つて黒くなりかゝる。母犬の食事前日と同じ。副食物として鯒、糸縒鯛などの白身の魚をお粥に配す。
五日
母犬の精神状態は、全く興奮より醒め平静となる。三仔も元気頗る横溢、断尾を行ふ。手術後の止血具合を見てゐたが、経過は良好である。
六日
仔犬も特に後足に力を入れ、起ち上らんばかりにして活発に活動するやうになつた。母犬も時々ハウスから離れて、軽い運動をとる。母犬の食事は前日と大差なし。
七日
各仔體重(単位匁)
A 八七.〇
B 八二.〇
C 八七.〇
平均 八五.〇
摘要
生れた時、仔犬Aは一番體重が軽かつたが、努めて母犬につけるやうにした為、仔犬Cと目方が変らぬやうになつた。三仔共発育良好で、毎日見慣れた眼にも大きくなつたことがわかる。母犬も授乳が一わたり済めばハウスより出て、室内運動をする。その間を見て、新らしい敷物を敷替へてやる。

第二週
八日
母犬の食事回数は前週と同じく二回にて、お粥を御飯に変へ、鯛、ほうれん草などを造つてやるが、午後十時頃、玉子の黄身を混ぜたる牛乳を與ふ。母犬好んで室内運動をする。
九日
仔犬A両眼開く。他の二仔は明日頃だらうと思つたが、夜に入つて、仔犬のB、片眼だけ開く。
十日
仔犬B、前夜開きたる片眼の儘、仔犬Cは未だ開眼に至らず。
十一日
仔犬B両眼全く開き、仔犬C漸く細眼になる。
十二日
仔犬Cも両眼開く。仔犬ABC頼りなき足つきにて、重たい頭をフラ〃させながら、起ち上らうとするやうな素振りを見せる。
十三日
ハウスの敷物を取換へる。仔犬A、小さき口を開き、母犬の前足に戯る。可愛らしきこと限りなし。
十四日
A 一二五.〇
B 一一五.〇
C 一二二.〇
平均 一二〇.〇
仔犬、ABCいづれも高這ひをなし元気溌剌、発育極めて良好

第三週
十五日
母犬の食事を朝晝晩の三回とする。食間牛乳を與へること前週に同じ。
十六日
仔犬の断尾せるあと、全く瘢痕を留めず。
十七日
仔犬の排便を注意するに異状なし。
十八日
仔犬も漸く眼が利くやうになり、母犬と共にハウスの外へ出たがる。
十九日
仔犬同士戯れる様面白く、銘々高這ひして鳴きながらハウス内を運動する。
二十日
仔犬を試みにハウスより出してやれば、座布団の上などで嬉々として戯れる。
二十一日
A 一六八.〇
B 一六〇.〇
C 一六八.〇
平均 一六五.〇
仔犬起ち上がつて、すこし歩くやうになる。母犬壁を舐めたりするので、ワダカルシウムの錠剤を少量與へる。

第四週
二十二日
今週より母犬の食事回数を四回に改めると共に、初めて母犬を戸外に連れ出し、新鮮なる日光の下に牽運動を試む。
二十三日
仔犬達は、色彩―殊に白い色に對して眼が動くやうになり、女中が座つたりすると、エプロンの膝を目懸けて慕ひ寄りてくる。
二十四日
仔犬乳に満腹するとグツスリと一寝入りする。眼が醒めると、きまつてハウスから出せといふやうに鳴き出すので、外へ出してやると用便する。日に五六回ハウスから出してやる。
仔犬Bの體重がAに比較してすこし目方が違ふので、努めて母犬の乳につけるやうにする。
二十五日
仔犬の足元が確かになり、啼声も犬らしくなつてくる。三畳の部屋では、走り廻つてゐる。早いものだ。
二十六日
母犬の食事回数一回増したるも、胃腸に異状なし。
二十七日
仔犬たちは、自分のハウスが解るやうになり、外で一時遊んでゐても、突かれると銘々勝手に入口に設けた小さな階段を上つてハウスへ入り、コロリと寝て了ふ。
二十八日
A 一九六.〇
B 一八九.〇
C 一九四.〇
平均 一九三.〇
この週にて、仔犬の眼、耳、足元、全く確かになりしことを覚ゆ。ハウスの敷物をかへる。

補食期 第五週
二十九日
仔犬の乳歯が生えかけて来た。仔犬も戯れてゐるかと思へば、喧嘩を始めるやうになつた。爪を剪つてやる。試みに牛乳を一匙小皿に入れて與へてみると、舌鼓を打ち、喜んで舐める。
三十日
生後三十日となつたので、記念の為、仔犬をハウスから出して写真を撮る。
三十一日
母犬の食事回数を一回減じ三回とし、仔犬に對しては、今日より以後本格的に補食することにした。牛乳を茶匙に三杯宛、銘々の小皿に入れ、一日三回與へる。

三十二日
仔犬たちも、主婦や女中の声がすると、その方向に走つて行くやうになる。何か旨いものを貰へると思ふのだらう。
三十三日
補食するも、仔犬の胃腸障害なし。ビスケツトの小片を與ふるに、丹念に噛み、上顎に着いたりすると、前足を上げ、招くやうな格好をして食べる。可愛ゆし。
三十四日
補食してゐるので、母親と稍長時間離すも、差支へなきやうになる。
三十五日
A 二三一.〇
B 二二四.〇
C 二二九.〇
平均 二二八.〇
仔犬の歯もシツカリする。指を出してやると噛みしめるが、相當痛し。母犬もボツ〃授乳を厭ふやうになる。

第六週
三十六日

第七週
四十三日

第八週
五十日




田村菊次郎「日本テリアの育仔日記」より 昭和11年


日本テリアといえば、このブログでもお馴染みの田村菊次郎さん。
2ヶ月分のネタが確保できるのでこれから彼の育成日記を1日分ずつ追加していく予定です。


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