生年月日 不明
犬種 シェパード
性別 不明
地域 上海
拝啓
秋冷の候、諸兄益々御多祥の段賀し奉ります。
小生上海方面へ参つてより約二ヶ月になり、終始頑健にて軍務に精励いたして居りましたが、不幸去月末病魔に冒され、現在〇〇野戦豫備病院に入院中にて、然し最早全快も両三日中となり徒然のままセパード誌V-10を行李より取り出し面白く見せて頂きました。
我々出征軍人のため會費全免の恩典も承知し、厚く御禮申します。
内地も犬界益々発展のやうにて殊に大阪にては支部展もこれある様子、昨年同場所に於ける関西特別展を見学した事も思ひ出されました。當地気候は内地より余程暖く凌ぎよき季節です。
唯降雨となると、それは非道い泥濘となり、人、犬馬、自動車等とも困難いたします。
戦況は大いに有利に発展しつつありますから御安心下さい。
軍犬の活躍は目覚しきものにて、大和魂の権化の如き感がいたします(全部がセパードにて他の犬種は見當りません)。敵弾雨飛の中を悪路、クリークと戦ひ傳令に、警戒に、患者捜索に縦横に活躍しております。
先年小生、献納の徳號も〇〇部隊に配属され敵前上陸以来、月浦鎮、羅店鎮、大場鎮攻略に手柄をたて、今は南翔〇〇方に前進してゐます。
軍犬活躍の状況等カメラに納めてありますから、御見せする機會もあるかと楽しみにしてゐます。小生近々退院、数日中には又乗艦して〇〇地に敵前上陸し、敵の虚をつくことになつてゐます。
いづれ後便にて委しく申します。
右一寸御禮旁々、近況御報告まで諸兄によろしく。
(林正二 十一月十日 JSV御中)
上海派遣軍山室部隊樋口隊 林正二 昭和12年
戦地における日本軍負傷兵捜索犬の貴重な証言です。
日中両軍が激突し、双方とも凄まじい損害を蒙った第二次上海事変。これが書かれた頃に勝敗は決し、中国軍は潰走状態に陥っていました。
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徳(軍犬)
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