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Channel: 帝國ノ犬達
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電信柱恐怖症

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電柱は都會シエパード犬の大きな興味をもつてゐるものである。
それだのにそれをこわがるとは?
Zpr(種族訓育試験)級への訓練中であるB犬を伴つて尾山神社へ来た。時は夕方である。
鳥居の両側に鉄で作られた街燈の電柱がある。

草むらをたのしそうに嗅ぎまわつていたB犬は、御無禮にもその電柱にかけ小便をやり出すや、忽ち大きな悲鳴をあげて逃げだした。ふしぎな事である。
呼び寄せて足を見ても傷一つとてなく、普通にあるいてゐる。
電柱の下を見てもトゲらしいものもなく、もちろん蛇や害蟲もない。

ハアハア……、さては例の恐怖症を出したね。
B犬はどう云ふものか傘を恐れる事ひどく、犬舎にひろげておかれた傘を見ても帰ろうとしない程である。
しかし電柱をこわがるとはおかしな事である。とにかく電柱へ近づけて慣らさない事にはシエパード犬の名にかゝわる事だと思つて、電柱馴致訓練と云う珍妙な事になつた。
B犬は電柱をこわがつて一寸やそつと引張つた所でとても近づけられない。

とうとうなわを電柱に廻して、犬をずらせつつも無理に一尺近くまで引張つた。B犬は息も切れそうである。
そして頭をなでながらほめてゐる中、私の額が電柱に触るやいなやビリツと痛をかんじた。
さては蟲かなと手で電柱にふれた所、又もビリツとする。
や、これは犬にとんだ迷惑をかけた。

電柱は漏電してゐたのである。

こう云う事から一寸思ひ浮ぶのは、戦場に於て敵の鉄条網等に對して電流が通じてあるかどうかを知る上に於て、軍用犬がそれにふれて発する悲鳴に依つて新規の訓練乃至豫防を講ず可く暗示を得られる事である。
十月十八日夜

猪俣忠三「犬のこわがる電柱?」より 昭和12年

最後の締めが斜め上方向へ突っ走っております。どうしてそうなる?
妄想想像力の豊かな飼主さんですねえ。


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