御無沙汰いたしました。
私は八月中旬より二ヶ月に渉り、満洲國を旅行してやつと青島に帰つて来ました。
将来のシエパードは如何しても満蒙です。このことはNSCの會報にも私の談として記載して貰つたですが。
ソヴエツト・ロシアのシエパード熱は非常に旺で日本より多く、且亦訓練も義務的に頗る進んで居ると承つて居ります。
日ソ戦争を豫定に入れなくても、匪賊は十年位絶へざる處はなし。
それに、世界有数の牧羊地、森林事業、鉱業等々、十萬位のシエパードの必需は戦争はなくとも将来如何にも起つて来るとの確信を抱かせます。それに気候、風土は獨逸のそれと酷似して居ります。
将来獨逸を凌いで満蒙を世界に冠たるシエパード王國たらしめねばなりません。
みんな協力せばそれは可能性ある仕事です。
一寸感じたことは満洲特有の野良犬、狼、蒙古犬等バツコいたし、これ等の奴はみなシエパードより強く喰ひ殺されるシエパードが時々ある由。
此頃(※満鉄)沿線の泥棒も悧巧になり勤務中のシエパードを持参せる強き野良犬とを喧嘩せしめ、其間に石炭や貨物を持行くとのことも承りました。
軍や警察は中型犬は恰好でせうが、牧場や貯炭場は大型頑強にして野生犬や狼に負けないのが必要かとも思ひます。
山東省青島 奥野直義 昭和7年
奥野さんの予想通り、多数の犬達が満洲國の国益のため配備されました。鉄道警備、密輸取締、国境警備、犯罪捜査、炭鉱警備、入植者のガード、牧羊事業など、シェパードにとっては実際たくさんの需要がありました。
そして13年後、奥野さんの予想通り、ソ連軍の侵攻によって満洲國は崩壊するのです。
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満洲観犬旅行
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