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Channel: 帝國ノ犬達
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ブリユー(軍犬)

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生年月日 不明
犬種 シェパード
性別 不明
地域 熊本県
飼主 青木はつせ氏

一昨年の七月、隊に愛犬を献納してから軍犬班の兵隊さん方と急にお知り合ひが出来ました。
昨年の八月、訓練の帰り道とて私の家を訪ねて下さいました時、その十頭餘りの中に宅から献納したブリユー號も交じつてゐまいたが、背の處と顎下の處とに二銭銅貨大の皮膚病に冒されてゐました。
班長様が云はれることには、「隊の犬は十分手入れと飼育管理はしてゐるが、どうも皮膚病に冒され易く、罹つたら中々治りにくゝ困つてゐる。お宅の犬は罹りませぬか」とお尋ねになりました。
私は、「宅の犬もこれまで度々罹りましたが、皮膚病では一度も獣医のお世話になつた事はありません。私の家では此の薬を気の附き次第擦付けてやります。日に一回、大抵三四回の中には治つてしまひます」と言ひつゝ、よく私を忘れずにゐてくれたブリユー號に塗布してやりました。班長様が「それは何んですか」とお訪ねになりましたので「これは鶏に用ひる薬です。十年程まへ養鶏してゐた時、主人が養鶏講習會へ連れて鶏の衛生の講習を受けたとき覚へてゐた妙薬です。
恰度その時、一羽の雌鶏がどうしたものか片眼を何にかで傷つき腫れ塞がり、血が流れてゐるのに気付きまして、すぐ清水で洗つたり冷したりしてやつて其まゝ数日おきますとゴツポリ眼が腐つて凹んでをりました。それがあんまり痛ましかつたので早速街の薬局へ行つて此の薬を調剤して貰ひ、其の鶏に用ひました處、一週間ばかりの中にすつかり其の傷が治つてしまひました。勿論目玉は腐つた鶏となりましたけれど、其の後大変卵を産んでくれました。
それからずうつと後の事です。或る日縁端で私が髪を櫛梳つてゐますと、後頭部へツル〃する手触りを感じましたので主人へ見てもらひますと、綺麗に禿てゐると云ふのです。これは大変なこと、お医者に行かねばならぬと吃驚しますと、主人があの鶏の薬を試しに用ひて見よと持オウしましたので早速擦付し、續いて数日試みてゐますと立派な毛髪がそつくり生え出てて元通りに治りました。
其の後また何回も禿たことがらいますが、何時もそれで治癒してしまひました。S犬を飼ふ様になつてから、よく皮膚病の嫌やな話―一度罹患したら中々治り難いと云ふ事を聞いてゐましたので、しよつちう注意してゐますと、一番目の犬の十ヶ月目ごろ、昨日まではちつとも変りなかつたのが翌朝食器をか〃へて庭へ出ますと、ピリ〃尻尾をふつて喜んでゐる愛犬が一夜の中に、目と鼻の中間部に親指で押す程毛が抜けて、皮膚までが脱落しさうでたゞれてゐるのを見て驚き様、私の頭の時のやうに用ひました處、すぐ治つてしまひました。
これが犬に試した最初です。それからは脱毛症や疥癬で痒がるものや、又よく撫でゝゐると横腹のあたりや顎部などに、大豆位の瘤みたいな物が皮下にごろ〃したものに気付いた時、直ぐ用ひますと何時の間には治つてゐます。
又ある時、若犬姉妹が藪の中に遊びに入つて喧嘩をはじめ、大立廻りをしたことがあります。
アルノよテアーよと名を呼びつゝ走り出て見ますと、妹犬の方が左後足の真ん中の指間を割れ物のかけらかそぎ切りにした竹の棍株でゞも踏み切つたものでせう、悲鳴をあげつゝ帰つて來ました。
見るとひどい怪我です。この時もやつぱりこの薬で治りました。それから宅に出来た仔犬が他家へ行つてから、顎から喉元へかけて疥癬にかゝり大変悩んでゐると聞き、この薬を早速送つてやりました時も、遠からずして全治したと禮状が來、知人の方から昨年五月お預かりした成犬(毎年春先から秋へかけて季節的に再発する慢性の皮膚病)が、一睡もせで夜通しかきもがき、酷ひ痒ゆがり方でした。その苦痛さに見兼ねて持参してきた薬と取かへ、私の薬を歯ブラシにて擦付してやり根気よく續けました處、一ヶ月餘りしたらすつかり治つて九月には喜んで帰つてゆきました。
宅では皮膚病と知り、怪我と見たら何でもかでも此の薬一手で治癒してゐます」とお話しましたら、班長様が「それは一つ教へて呉れ」と云はれたので調剤した物を分けて上げ、そしてお教へしました。
其の薬とは、ワゼリン一〇〇にクレオリン二を練り混ぜたものであります。
宅では子供が草まけをしたとき、近所の人が肥料まけをしたときなどもこれを擦込んでやりますと、よく痒みがとれる速効があります。只今ワゼリンが中々手に這入りませんが、右の量だけで、人に分けてやつたり犬に用ひたりして、四五年は使ひました。私の實験ではよく効く薬です。
鶏の薬を人にも犬にも應用して、其の効果百パーセントを得たことは(天狗自慢ではありませんが)私の大發見です。
既に御存知のお方もあると思ひますが、まだお気付きでない方は一度お試しになつて御覧じませ。

青木はつせ「私の犬の皮膚病薬」より 昭和17年


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