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Channel: 帝國ノ犬達
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お伽ばなし 桃太郎鷲征伐 明治37年

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畫 春効
文 高輪漁夫
風俗画報「日ポン地」
明治37年

明治37年8月に起きた、連合艦隊とロシア太平洋艦隊による黄海海戦を桃太郎になぞらえたマンガ。
ロシア軍は熊ではなく、なぜかワシになっております。
明治時代は美化して語られたりしますが、現代の比ではない格差と貧困、差別や犯罪の横行、繰り返される疫病や戦争といった負の面もありました。
戦時中だけに風刺漫画の世界は品性のカケラもなく、敵国ロシアをケチョンケチョンに貶しております。

おそろしいのは、コレが大人向けの作品で、しかも彼等が「もっと書け」「もっと読みたい」と快哉を叫んでいたということ。



桃太郎将軍側の戦力は、犬のワン九郎(第一軍)、雉のケン助(第二軍)、猿のキヤ右衛門(第三軍)
ワシ軍側の戦力は、黒鳩(クロパトキンね)率いるアレキ鷲、マカロ鷲、スクリドロ鷲

鬼が島を占拠した鷲が小鳥をいじめるので、桃太郎一行が懲らしめに再出撃。
これを察知した鷲軍も迎撃に出たところから御話が始まります。

犬
傘を被った猿が魚型水雷(いわゆる魚雷)となって海に飛び込み、ワシ軍の盥舟の底を突き破って撃破。
という流れをヒトコマにて表現しております。猿が三匹描かれているのはそういうワケ。

鷲の連中は船を二艘出しました。
桃太郎の方では鬼ケ島の沖に船を止めて見て居り升と
犬「來ました」
桃「何だ」
犬「敵が來ました」
桃「ソレ、ケン助、飛び上つて見ろ」
雉「畏りました」
ト雉子のケン助は羽根を廣げて飛びあがり升と、去るのキヤ右衛門は帆柱の上へスル〃〃と登りました。
雉「來た〃、盥が二艘」
猿「鷲の野郎め、シコタマ乗つて居やアがる。何れから先へ引掻いてやらうか」
桃「待て〃、敵は二艘に味方は一艘、挟み撃にならぬ様に注意をしろ。一同用意ツ」
三人「ハイ」
桃「雉子のケン助」
雉「ハイ」
桃「天邊へ登つて鷲の頭に袋を冠せろ。犬のワン九郎」
犬「ハイ」
桃「傘をすぼめて水雷を作れ」
犬「ハイ」
桃「猿のキヤ右衛門」
猿「ハイ」
桃「先登しろ」
猿「難有い。キヤたじけ無い」

準備が十分調つて居り升。是に反して鷲軍は何の考へも無く敵を侮つてドン〃進んで参りました。
鷲「何だ日本一だなんて。二三人しか居ない。夫に向ふが一艘で此方が二艘だ。挟み撃にして遣う。ソレ撃〃」
猿「來た〃、彼奴を一つ驚かしてやらう」
猿のキヤ右衛門は傘をすぼめてドブンと飛び込みましたが、忽ち向ふの船の底を突き抜いてニユウと上へ出ましたから、鷲は驚きました。
鷲「船の底がぬけた。何故前に断つて置ないのだ。突然にやるのは卑怯だ〃」
猿「何が卑怯だ、畜生。軍(いくさ)をするのに水雷を發射と断る奴があるものか」
鷲「沈没〃、救へ〃」
此声を聞て二番目の船が救ひに行うとするを見て、桃太郎は笑ひながら
桃「ソレ、ワン九郎、第二番の敵を撃て〃」
犬「宜しい」
ワン九郎が又水雷を發し升と、第二の盥船へ中りました。
鷲「ワア、己も遣られた。ブク〃〃」
「助けろ〃」
「救へ〃」
猿「アハゝゝゝ、両方で助けろと言つて居やアがる。ワン九郎、みんな羽根を縛れ」
犬「よし〃」
雉「僕は袋を冠せるよ」
犬「オヤ〃雉子のケン助は素速いなア。大将の頭へ袋を冠せた」
鷲「わたくし最う軍(いくさ)しません。あやまりました〃、寶でも何でも出し升」
桃「キヤ右衛門もケン助もワン九郎も、鷲奴を一度に縛つて帆柱へくゝり附けろ」
猿「何うするのです」
桃「宜い工夫がある。三人共來い〃」
ト言ひ升から、三人は鷲をみんな生捕て縛りつけました。
桃「みんな飛べ〃、飛ぬと殺すぞ」
鷲「ヘイ〃」
鷲がみんなツーと飛び揚り升と、桃太郎の乗た船は四人を乗せたまゝ空へツーと風船の様に上りました。
猿「大将是は奇妙だ」
犬「名案で御座い升」
雉「しかし何處へ参るので御座い升か」
桃「鷲が島だ」
猿「ナール程。アレ〃もう來ましたよ」

ワシ艦隊を撃破した桃太郎一行は、舟に縛り付けた捕虜ワシの羽ばたきを利用し、空から鷲が島(旅順)へ侵攻。
何と、パレンバン降下作戦の30数年前に空挺強襲をかけるとは。気球飛行なんかは既に普及していたものの、これは時代を先取りですねえ。
鬼が島を「再占領(1回目は鬼征伐)」した桃太郎たちは意気揚々と凱旋する、という筋書きでした。
財産を強奪した揚句に鷲の爪とクチバシをむしり取り、羽根を抜いて追放するという捕虜虐待までやらかしております。やり過ぎだぞ桃さん。



これが出版された頃、旅順攻囲戦は激化の一途を辿り、勝利した日本側も膨大な数の戦死者を出すこととなりました。
現実の戦争は、マンガのようにはいかなかったのです。


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