和歌山県新宮署久司獣医の愛犬紀州犬が、千葉歩兵学校の軍用犬訓練所へ入所したが、今回入所以来の成績を東京の水口獣医から久司氏のもとへ通信して來た。
それによると、同期に入所して訓練を受けてゐるドイツ産セパードよりは温順、機敏、且つ賢明で、軍部でも非常に重要視してゐる。
訓練期間は三ヶ年であるが、この調子で進めば、将来紀州犬をもつて軍部獨特の軍用犬を養成し得る見込みがあり、係官はいづれも将来を楽しんで居るとのことである。
「機敏で賢明な紀州犬」より 昭和9年
軍用犬即ちシエパードと云うた色彩の濃厚な折柄、京都師團では全國に魁して、軍用犬も國産でと云ふ意気で、司令部堀内中佐が主となり、和歌山縣から純粋の猪犬数頭を取寄せて飼育し、研究調査に着手するように決した。堀内中佐は「日本犬は多分に野犬性を帯びてゐるから最初の飼育には相當に骨が折れると思ふが、我國ではこれが最初の企であるだけに大いにやつてみたいと思つてゐる」と決心を語つた。
「京都師團の日本犬」より 昭和9年
日本軍は、原則としてシェパード、ドーベルマン、エアデールの三犬種を調達の対象としていました。
これらは日本全国(内地・外地を問わず)および満洲国で飼育者リストと犬籍簿が整備され、いつでも大量調達が可能だったからです。
いっぽう、歩兵学校軍犬育成所や関東軍軍犬育成所、各地の陸軍部隊では、これら主力犬種以外にもセッター、ポインター、土佐犬、秋田犬、樺太犬、レトリバー、コリー、シュナウザー、柴犬、台湾犬、満洲犬、グレートデンなどをテストしています。
陸軍将校が自分のペットを軍施設で訓練したケースとしては、甲斐犬の「剣」が知られていますね。
この紀州犬たちもそのようなケースだったのでしょう。続報は見られないので、訓練結果は芳しくなかったのかも。
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軍用紀州犬
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