昭和十八年十二月來より今年一月初旬迄の間、某師團の軍犬購買官助手として九州各地主要都市を購買旅行致しました。
その折購買應募犬に附き感じた事と、また痛切に考へた私案に就いて皆様に御聞して戴きたいと思ひます。大體各購買場における不合格犬の内譯は
1.稟性の悪しき犬 50％
2.サイズの小さな犬 20％
3.外貌のシエパードらしからぬ犬（日本犬的犬） 20％
4.歯の悪しき犬 10％
1.は血統の関係が不合理な飼育管理（放飼）によるものと思ふ。
2.3.は繁殖者の不定見なる交配の為か。
4.當時熱き食物で飼育するか、又はデイステンパーで歯の役立たないもの等でありました。
近頃協會で帝犬登録犬の資質検査が施行された事を聞きましたが、一日も早く甲（優・特良）乙（良上、良、可）丙（不可、失格）等の能力一覧表を作り、将来軍犬として野戦に出される犬、又は種犬として蕃殖に残す犬等を定め、その他の軍犬に適せぬ犬はこの際涙を呑んで直に人類社會との関係を絶つ事が我々愛犬家の務めかと存じます。
又その為に一時飼育犬数は少なくなつても、〇市で〇頭買上げと定まれば、今迄の如く大多数の犬を購買場に連行する必要がなくなり、色々な方面より大いに助かるのではないかと思ひます。
最後に犬を供出された人々の話では、近時仔犬の値段が悪性インフレ化してゐるとの事ですが、特に一部の犬を餘いては生後五六十日の仔犬で五〇圓―二〇〇圓位の中級犬の繁殖を計り、仔犬の悪性インフレ化を防がねばなりませんが、土地や飼料及び人の點で都市では到底出来ぬのではないかとも考へられます。
そこで購買犬の育成は田舎にて蕃殖作出を計らねばならぬと思ひます。
又一面都會は軍部や協會の指導を良く受けられる関係で、種犬の作出蕃殖を大いにやつて戴く様に致したいと思ひます。又交配牡犬の件ですが、今少し軍種牡犬の御利用をお薦め致します。
此の如くして我々が愛好する軍用犬シエパード種の犬種百年の大計の礎が出来るかと存じます。
重ねて云ふ。
前世界大戦時のドイツ犬界の足跡を踏まぬ様、今から各人が努力致さうでは有りませんか。雑言多謝。
郡城市・西・一七・田村隊 高治一夫「軍犬購買旅行感想」より
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昭和19年の九州シェパード界
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