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伏見博英

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元皇族。

伏見宮博英王はこの寄稿の翌年に臣籍降下、8年後にセレベス島付近で乗機が撃墜されて戦死を遂げます。

 

この度、遠洋の御航海より御帰朝遊ばされたる、然る高貴なる御方には、夙に狩猟を愛させ給ひ、又先天的の名射手にておはしまします。申し上ぐるも眞に畏多き御事乍ら、今回金波銀波生なる御筆名をもつて、遠洋航海中に於ける、御猟日誌の一端を本聯盟に御寄せ賜はりしは、誠に過分の御沙汰と拝し、恐懼感激の極、只感涙にむせぶのみで御座います。

本玉稿の中にもらるゝ處は、會員諸氏の切に御熟讀を希ふ次第にて、恐らくは諸氏も尊き御心の程に接し、涙ぐまるゝ事と信じて疑はない處で御座います。

謹みて茲に御禮申し上ぐる次第で御座います。

竹内安吉謹記

 

 

私は練習艦隊の一乗員として軍艦浅間に乗組、昭和九年十一月より同年十二月迄内地航海に、昭和十年二月より同年七月迄外國航海に従事して來た。

遠く祖國日本を離れ、若さ一パイの元氣で、臺湾、支那、フイリツピン、シヤム、シンガポール、ジヤバを経て、豪州、ニユーヂランド各地を巡航し、フイヂー群島、サモア島を経て、ハワイ、ヤルート、トラツク、ポナペ、サイパン諸島に寄航して、最近無事横須賀に帰着しました。

その途中に於ける狩猟漫談を、こゝに一つ、二つ、暇々に日記から書き抜いたものが本稿です。細いところは記憶そのまゝですから、少々の間違があるかもしれません。

もう、内地の猟期も既に目睫の間に迫つて來ました。日本の猟が待ち遠しく、今年は腕に撚掛けて、射つて、射つて、射ちまくり度いと思つて居ります。

 

(犬とは関係ない旅行記が延々と続くので中略)

 

……さうこうして居る間に、鹿の大群は羊や牛の群の中を、砂煙りを上げて駆け抜けモウ遠くて射てない。すぐ自動車に乗つて追撃戦に移つた。

鹿は六尺もある牧場の柵を、楽々と飛び越えるが、自動車はさうは行かない。廣い牧場の中を、二十五哩から三十哩位の速力で追つかけて見たが、到々見逃してしまつた。もはや時刻も正午近くなり、吾々は艦に帰るべく餘儀なくされた。

その日の午后は艦でアツトホームがあるので、残念だが帰途につき、午後一時半頃帰艦しました。以上が第一回の鹿猟失敗の巻です。

次はメルボン(メルボルン)市の思出に移りませう。

 

メルボン市附近には適當な猟場が無い。

市から約百哩位離れると、カンガルーが居る所がある。遠すぎて時間が不足で行かれない。

其處でクレー射撃をする事に成つた。

クレー射撃をする豫定の一日前に、或る銃砲店に立寄つた。ドナルド・マツキングトツシユ氏の経営する大きな店である。

何か良い銃を見せてくれ、と云ふと初めは安いベルギーの銃等を見せてたが、終にはグリーナーのエヂクター付の時價八〇〇圓と云ふ銃を出して來た。

中古ではあるがグリーナーの最高級品。中々良いがもつと良いのを見せてくれと云ふと、今度はバーデーの大古物を出して來た。

ドナルド君曰く(ドナルド氏は七十五、六才の老爺なり)この銃は自分がモナコに行つて、二〇、〇〇〇圓の懸賞付の射撃に一等を取り、二萬圓の賞金と黄金のカツプを取る事の出來た銃ですと云ふ。

小生はそんなに上手なら、試合をしようかとからかつて見たら、ドナルド氏は、君達は明日クレー射撃に來ると云ふ、日本の練習艦隊の勇士ではないかと云ふ。

そうだ、と云ふと非常に喜んで、色々と猟談に花が咲き、たう〃約三時間位愉快な猟話をしてしまつた。

同氏は明日行く射場の、會長をして居る人であつた。

 

愈々次の日、ノーベル・クレー・ターゲツト・クラブの射場に行つて見た。この射場は、有名なる英國のICI(イレー會社)の出張所附属の射撃場である。どん〃弾丸を製造して、豪州とニユーヂーランド方面に賣り出してゐる。

その弾丸はイレーの弾丸と少しも異らない。たゞメード・イン・オーストラリヤと、ケースの外箱に印があるのみ。

火薬はダイヤ、スポーテング・バリスタイト、ネオフレークEC等を、本國から輸入して使用して居る。その他ケース、散弾コロス、紙蓋の如き物も、全部イレーから輸入して居る。

製造所は大體に於いて正方形の建物で、中央に區畫があり、両側で仕事をして居る。大體略圖を書けば別圖の如くである。一日製造能力二萬發位との事。

 

この日射場へ射撃に集まつた人々は、メルボン地方の天狗連ばかり。

中でもマツキングトツシユの息子ジエームス君はとても上手で、二十五個射で第一回で全満點(打ち返し無し)、その上ドン〃で二つ出るクレーを、右手に銃を持つて片手射ちをやり、両方共落とすと云ふ腕前。

先づ技術としては入神の快腕。

其他の人は二十五個射ちで、二十二、三個まで射つた。それもその筈、これらの人達はクレー會社の専属射手で、多年始終クレーの試射ばかりやつて居る外に仕事がないからであらう。

人數は十人位集つた。

自動トラツプが三臺ある。豪洲のハンデイキヤツプは、日本の如く持ち點に依らず距離の遠近に依る。

上手な人は遠い距離から射撃をなし、下手な人は近距離からする。小生は勿論一番近い所から射撃した。

云はずもがなで、競技の結果ジエームス君が全満點で一等をとる。記念品を寄附してこの日は帰艦した。

次の日又ドナルド氏の店に行つた。これからが面白いナンセンスが起る。

やあ、やあ、今日は。今日は。

と日本語では云ふが英語で話すと中々まどろこしい。まるで剣術使ひの様な固い調子で日本人は挨拶するが、外國人はさうでなく、ドナルド氏は丁度店先に居て。この間は息子がありがとうございましたと云ふ。

又色々と愉快な話が始まつた。

 

同氏が云ふには、自分の祖父が約百五十年前に支那へ旅行した時、或る陸軍大尉から古い先込めの拳銃(ペヤー)を貰つたから、これを進上すると云ふ。

小生は断つたが中々聞き入れず、到々受け取る事に成り、店の奥から出して來た銃を見れば、有鶏頭の先込式拳銃。日本等では見たくとも見られない、歴史的古物である。火薬、雷管、弾丸、その上油差まで附属した箱に入つて居る。

これは何に使用するかと聞いたら、Man Killed Gunだと答へた。大笑ひ。

その日は夕方ジエームス君が二三人の友達を艦に連れて來たので、日本のキリンビールを御馳走したら大喜びであつた。何んと云ふビールかと聞くから、ジラフビーヤと答へ大笑ひであつた。兎に角ドナルド氏とジエームス君は愉快な人である。

これが遠航中に於ける、快的笑話劇の一シーンである。

 

金波銀波氏による弾丸製造工場と射鳩場解説圖

 

シドニーのピジヨン・シユーテング

シドニーには有名なるハーバー・ブリツヂと云ふ橋がある。世界三大橋の一つ。

此處にはアスコツトと云ふ所に、ニユー・サウス・ウエールス・ガン・シユーテング・クラブと云ふ大きな射撃場がある。

クレーを射つのではなく、本物のピジヨン(鳩)を飛ばして射つので、本當に古風な氣分が味はゝれる。

射手の立場から二十五碼前方に、四角な箱が置いてある。

径一尺位、その中に鳩が入れてある。

射手がプール(宜し)と云ふと、助手が糸を引き箱が開かれる。鳩が飛び出す。射ち落とせばすぐスパニエルが運搬して來る。

この射場の平面圖を書いて見ると、左圖の如くなる。

中々實猟の氣持が出て面白かつたが、たゞ一つ困る事には、良く命中するとお祝ひと云つて、度々ウイスキーを飲まさせられることである。五六發射つ度に酒を飲まされるので、グロツキーになりふら〃になる。

 

五月九日、いよ〃豪洲を辞して艦隊はニユージーランドに向ひました。

ニユージーランドは有名な猟と釣の國であり、今一つの名物は、マオリ族が住んで居る國であります。

この國の一番有名なる狩猟は鹿射ちでありまして、赤鹿とドイツ鹿が多数居ります。釣の方は鱒釣りと、スオード・フイツシユ(カヂキ鮪)とが有名であります。

小生は豫て希望して居た鹿射ちに行かうと思つて、各方面を調査したが、何れも港から一泊がけの遠い所なので、残念ながら鹿射ちは止めました。

鹿は政府が賞金をかけて、その捕獲を奨励して居ます。誰か熱心家は一つ奮發して、鹿射ちにニユージーランド迄遠征してはどうです。

あちらの政府から招待でもさせて。

 

ウエリントンの思ひ出(五月十七日)

ウエリントン付近では、兎射ちに行つた。市から自動車で一時間北に向つて走ると、パラパラナムと云ふ政府の支那雉の飼養場がある。その付近には兎が無數に出て中々面白かつた。

半日で十頭(同行者三名)を射つた。

管理人レンジヤーの猟犬は、英ポの牡で、黒白の斑があり、丁度大阪の保田俊一郎氏所有の、モーニングランド・デイツク號(牡)RRSB№94にそつくりの犬であつた。

小生はデイツク號の實物は見ないが、写真に左側面あたりが良く似て居る。

私はこの猟犬を見て、私のブラツク・プリンセス號を思ひ出して懐かしく思はれた。藝風も良く似て居るし、態度もそつくりの犬であつた。

ニユージーランドの兎は馬鹿らしい。

犬がポイントすると、犬の脚下から飛びだす。飛び出すのが遅い兎は、犬がくはへてしまふ。

所々に兎の穴があつて、早く射撃しないと穴の中に飛び込んでしまふので、面喰つたが相當面白い猟であつた。

途中鹿が臥て居ると云ふ報があつたので、おつとり刀で馳けつけて見れば、木の切株であつたりして、息切れを苦笑にまぎらせたりした事もある。

この日一日はゆつくりと猟が出來て面白い一日であつた。

 

金波銀波生「波の間に間に」より 昭和10年

 

金波銀波氏の愛犬プリンセス號。


 


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