生年月日 不明
犬種 シェパード
性別 不明
地域 満洲
飼主 貴志重光大尉
本年の三月二十九日佛暁に私は山砲、迫撃砲、機関銃等をもつた歩兵中隊を指揮して長春から三里許りも隔てた吉長鐵道沿線の興隆山附近の三村落に掠奪中の約六百の匪賊と交戰を致しました。
私達は高粱畑に展開して攻撃します。敵は堅固な支那部落の囲壁に拠つて居りまして、其の射撃の爲めに連絡兵の行動は危険至極でありました。
此の時伴つて居りましたブリツチ號を機関銃分隊との連絡に使用致しました。ブリツチ號は幸に數回の傳令に負傷もせずに、飛ぶ様に迅速に能く傳令の任を盡し、約三時間近い戰闘の後に敵を撃退し得たのであります。廣漠たる原野の暗夜又は隠蔽地では方向維持は全く困難であります。ニ三度行つた所でも然りであります。
我々が戰闘する場合は凡て初めて行つた土地で、全く不案内であります。それでも傳令は行かねばなりません。
敵の敗残兵はウロ〃して居ります。敵の斥候も潜り込んで居ります。如何に日本の勇敢なる兵士でも、一抹の不安は感じます。
所謂戦場心理であります。
此の不安と戰ひつゝ連絡しなければなりません。私は下志津原で、夜間演習の際傳令が方向を失つて徹夜原を彷徨つて居たことを経験して居ます。
獨立歩兵第二大隊 歩兵大尉 貴志重光「満州事變と軍用犬」より
昭和7年