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Channel: 帝國ノ犬達
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帝国軍用犬協会と日本シェパード犬協会の対立・九州編

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KVとJSVは、戦時を通して全国各地で激しく対立していました(幹部が両団体を兼務していた朝鮮支部除く)。陸軍をバックにつけたKVの合併強要に対し、JSVは筑波藤麿会長を盾に徹底抗戦。日本犬保存会と日本犬協会のような口喧嘩レベルではなく、軍部や皇族を巻き込んだ本気の潰し合いだったのです。両団体と仲が良かった満洲軍用犬協会も、如何せん距離が遠すぎて仲裁役にはなれませんでした。 これらの怨恨が戦後犬界にまで尾を引いたとか言われても、「たかが犬のことで大袈裟な」「せいぜい東京の出来事で、地方は無関係だろ」というのが普通の感想でしょう。しかし下記を読めば、恨む気持ちも理解できるんですよ。故安川九州支部長追悼展覧會審査報告時 昭和十六年五月四日所 門司市錦町國民學校々庭「故安川九州支部長追悼のため本展覧會を開催された事は誠に意義のある企である。氏は最初KVを脱しJSVに加入された人である。然し氏の犬界に残された業績たるや當地方に於て不滅のものが有り、両團体を通じて恩顧のある人と聞いて居る。本追悼展覧會は初め氏の居住地、福岡市に於てJSV會員たるとKV會員たるとを問はず、且又登録犬たると否とに不拘少くとも安川氏を知る者が気軽に集つて其の霊を慰め度いといふ美挙から本年一月早々決定。二月にはJSV會報並に犬界唯一の雑誌犬の研究誌上にも發表されて居たものである。然るに開催日の切迫せる二週間前に至り、突如KV九州地方支部の主催として前代未聞の春季第二回目の展覧會を、然も安川氏追悼展と同日、同場所に於て開催するといふ事が發表された。勿論斯の如き不穏當なる企に對し、賢明なるKV理事者が承諾せりとは断じて信ぜざるも、常に犬界に害毒を流す一部徒輩の横紙破り的な意見に迷はされて、此の企を決定せる當事者の責任は回避し得ない筈である。然も其の理由として挙げられたるものは、‟福岡はKVの縄張であるからJSV展は遠慮してほしい”と。少くとも國民教育を受けた者は嘲笑せざるを得ないであらう。世は既に明治維新を経て大正昭和へと文明的進歩を續けて居る。封建時代の陋習が今猶當地方に存在せるものとすれば、我國生命線の先陣を承る九州男子の面目果して那邊に在りやと叫ばざるを得ない。幸にしてKV小川大阪支部長、山野審査員とJSV西脇大阪幹事長、細谷審査員の四氏の間に於て、“KV側は本展覧會を無期延期す。強ひて開催するならば審査員を送らざるは勿論、該當事者を除名するも差支なし。JSV側は其の意を諒として場所を変更され度い”と云ふ諒解成立に依つて不祥事も惹起せずJSVは門司市に變更し無事に終了したのではあるが、之れによつて故安川氏追悼展の意義は全く半減され、且つ最も表彰され來つた九州男子の、否日本民族の美風は完全に破壊されて終つた事は否めない。縄張だと尊重して居る内にも我々シエパード犬界は日進月歩最高峰へと直進して居るが、憐むべき福岡犬界は封建思想の爲め取残されて、次第に低下するであらうと心ある者は慨歎せずには居られない。展覧會當日はJSV展にも似合ず前日の豪雨も止み、暑い程の好天氣で和氣藹々として終了したが、当日はKV監視員が出張して‟同展への出陳者には今度米を配給される場合にも米を與へない”といふデマが盛に傳へられて居たが、果せる哉約30%の缺席犬があつた。恐らくはデマに恐れたものだらう。元來米が犬の主食物の様に思つて居る爲めにこんな間違も起る。米は犬に取つては最も悪い代用食である。シエパード界は斯く叫んで居る。「先づ原産地區獨乙を見よ!我々シエパード犬は米で育てられて來たのではない。日本へ來て初めて日本人がお臺所の都合上好まない飯に肉や魚を入れて空腹の我々に無理から食わせて居るのだ」と。こんな食事で良い犬が出來る筈はない。本國でジーガー、ジーゲリンを生んだ両親が双方共日本へ來て生んだ直仔でさへ非常な差があるではないか。正に二十年を経過せる今日に於ても、日本で出來た犬で唯の一頭でも本國のV賞犬に匹敵出來るものがあるのか。これ位の事が判らねば餘程日本人もノールスだね!戰線からの通信には何と書いてある。“米なんか炊いて居られない。飯と汁で育つた犬は駄目だ。犬は案外弱くて使へない”と度々云はれて居るではないか。當然だよ!仔犬から成犬迄……平常から戰線迄、一定の飼料を作る事が先決問題だよ!我々は代用食を占取して犬に食わすより適當な飼料を考案して米は戰線の兵士へ、銃後の産業戰士へ、成長期の第二の國民へ與へるべきではなかろうか?彼等は皆空腹で困つて居るではないか。犬を飼つて居る者の務として、これ程大きな問題はない。一刻も早く飼料を完成する事は飼主の責務だよ。何も知らない役人連を偽つてこの人間に貴重なコメを詐取して居て恥ぢざるは愚か、威張つて居る輩があれば、それこそ真に非國策的な、非國民的な、賣國奴にも等しい奴であるよ!飼主よ、も少し賢くなれ。社會よ、も少し真實を究めよ!然らば偽る者もなければ偽はされる者もなくなる。而して我々も、適當な食事にありつけて出來る丈けの職域奉公が出來る。こんな嬉しい事は又となからう。ワン、ワン、ワン」鈴木正男「今回の展覧會はJSV九州支部としては初めての展覧會で、九州としては厳粛裡に且慰霊的に行ふ可き追悼展であり、爲めに會員、非會員、登録犬、未登録犬を問はず、此の意義ある展覧會を成會裡に有終の美を致し度き希望の下に、大乗的見地より出發した本展覧會も、或一部の人々の策動の爲め、故人の居住地である福岡市に於て開催することの出來なかつたことは、故支部長に對しても、亦御遺族に對しても遺憾至極にして申譯無い次第である。一次的感情利得に走り、吾大和民族の醇風である可き、報恩を忘れたる、犬にも劣る徒輩の多きに今更ながら悲憤の涙を禁じ得ないのである。人一倍情熱家であり涙脆い私は、あの祭壇に飾られた、故人の御姿を正視し得ず、又會長閣下より御下賜遊ばされた弔花に對し奉つても恐縮したのである」青木龍身両者が和解するのは、昭和27年になってからのことでした。 

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