Quantcast
Channel: 帝國ノ犬達
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4169

明治犬猫論争☆第十二ラウンド

$
0
0

陰険な性をそなへた猫よりも、活溌で忠直な犬の方が、はるかに有用だらうと思ふ。
猫は、単に鼠を捕るのみで、他には何の益する所もないではないか。
尤も鼠は恐るべきペスト病の媒介をし、又蚕、食料品等を荒して、人類に少なからざる害を及ぼすものである。
だからこの鼠の大害を拒ぐ猫は大いに有用であると云はなければならないが、しかし現今では、種々の防鼠剤や巧妙な捕鼠器等があるから、これらのものさへ備へておけば鼠の害は全く絶滅することが出来る。
故にかならずしも猫を大切さうに飼養しておく必要はないだらうと思ふ。これを思ふと猫は左程有用な動物でもあるまい。
それに反して犬はよく盗賊の番もすれば、幼児の守もする。
寒風身を切るが如き冬の朝、猫なれば暖い炬燵の上に慄へながら、蹲くまつて居るだらうに、犬は狩人と共に深山廣野をかけ廻つて鳥獣を狩りたて、又或時には小主人の御供をし雪中遠足等に行くこともある。
其他手紙を持ち運ぶ賢い犬もあれば、橇を引く忠直な犬もある。
昔から、人を助けた義犬、善く主人に仕えた忠犬等の美談は頗る多い。猫にこんな美談が一つでも有るだらうか?
否、寧ろその陰険な本性を現はして人を悩ました、猫化等の怪談が多い。
これを以ても犬は猫よりも、はるかに有用であると云ふことを解することが出来るだらう。

京都府福知山町
三宅貫一 十四歳八箇月
自作證明者 父・三宅忠三郎


猫なら炬燵の上に、の處が好く出来ました。



明治43年の「犬と猫とは何れが有用か」より、第十二ラウンド。
前回の意見がマトモ過ぎたので、ファイト溢れる好き嫌い論へ戻ってホッとしております。
しかし、三宅君が「猫は陰険だ」と執拗に非難するのが謎ですね。まさか、本当に化け猫を信じていたのでしょうか?
明治中期あたりまで、怪現象や妖怪騒ぎは身近なものでした。その手の新聞記事も普通に見られますし、明治末期までに怪異を畏れる人心が一変するとも思えません。電燈の普及により、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のケースは増えた筈ですが。

三宅君が住んでいた京都には、21世紀の現代でも狸の家族が人間に化けて暮していたり、猫ラーメンという屋台が出没したり、大学生がホルモーとやらに興じているとの噂もあります。そのような古都ゆえ、明治時代には猫又くらい存在していたのかも。

扨て。
化け猫の本場と言えば佐賀県ですね。
むかし長期滞在していた佐賀の旅館では、20歳過ぎの牝猫が飼われていました。
この老猫は深夜になると私の部屋へ忍び込んでくるので(晩酌の残り物を狙って)、暗闇でにゅるりと蠢く白い物体を見て悲鳴を上げそうになったことが幾度もあります。
昼夜とわず瞳が丸いままで、どことなくニンゲンっぽい風貌の猫でした。
あれから10年経ちますが、……今ごろ尻尾が二本になってたりして。



犬猫論とは関係ありませんが、文中に出て来る「巧妙な捕鼠器」とはこんな感じでしょうか。

帝國ノ犬達-鼠
明治23年の鼠捕り器。学生時代、(単なる暇潰しで)この手の広告を集めたのが、漸く役に立ちました。
そういえば、捕鼠犬の記事を放置したままだったな。


何だかよく分からない締めですが、第十三ラウンドへ続きます。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 4169

Trending Articles