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Channel: 帝國ノ犬達
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竹本恭太郎

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関西の日本犬研究会(※日本犬協会ではなく)メンバーで、狩猟と畜犬編集長

 

 

犬と私との生活も永い事である。犬を使つて猟をする事を覺えてからでも、もう十幾星霜の年月を経て終つた。私の半生は實に犬に依つて支配されて來たとも言ふ事が出來る。其ほど私は犬が好きだ。學窓を出て神戸の居留地で商館勤めも六七年したが、犬と私との生活は下宿屋住居をして居る間も常に絶へない事であつた。

世に月給取程つらひものはないが、朝出て晩歸る迄、私の歸りを今か〃かと待ち暮した犬共は尚、更につらひ事だつたらうと思はれる。

世の人は犬と只一言に言つて終ふが、私は動物の中で犬程吾々に種々の事を教へて呉れるものはないと思ふ。私の幼時は小學校の先生より犬の動作の方が物事を教へて呉れた様に考へられる。犬にはサボタージユもなければこの頃流行る罷業もない。實に忠實で天真爛漫なものだ。目下日比野で利権の争奪に余念ない輩に、一寸犬の誠心でもつぎ込だら霊験あらたかかとも思はれる。

私の子供時代は既に五歳位から常に五六頭の犬に圍まれて居たさうだ。七八歳の物心のついた頃からは仔犬を飼ふにも親犬の血筋を確かめないと決して飼ない性質があつたとは物覺へのよい伯母さん達の常に語る處である。「この子は子供の時から仔犬をもらつても一々親の素状を確かめんと飼はなかつた」との言を聞く毎に、私は常に昔に還つて敬虔なる心持になる。

好きが長じて趣味の延長から犬に関する雑誌を出す様になつて二十一ヶ月の時の流れが過ぎた。毎日多忙の爲、愛犬供に觸る事のない日が續く事もあつて、彼等には氣毒だが「同類のため幾分とも盡しつつある事を思つて許して呉れ」と心で思つて居る。今日で編輯も終つた。ブラシも私がかけてやらう。運動もさせてやらふ。

竹本生 昭和2年


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