明治~大正時代の日本にもグレートデーンやセントバーナードといった大型犬が来日していました。明治時代の八甲田山遭難事件でセントバーナードが陸軍の捜索活動に協力したり、大正期の警視庁がグレートデーンのスター號を採用したり、公的機関の記録も残されています。
他の巨大犬であるディアハウンドやウルフハウンドはどうだったのでしょうか?
海外の大型洋犬として、ディアハウンドは明治時代から書籍上で紹介されています。ただし、その巨体ゆえ実物の輸入は阻まれたままでした。
アイリッシュ・ウルフハウンドが来日したのは、ようやく日中戦争開戦直前のこと。しかし戦時体制への突入と日英関係の悪化が重なり、後は続きませんでした。
https://ameblo.jp/wa500/entry-10561683286.html
戦前に来日したアイリッシュウルフハウンドについてはリンク先をどうぞ。日本へ到着するまでは海を渡り大陸を横断し、相当な苦労があったと述べられていますね。
図体がでかい分、カンタンに運ぶこともできなかったのでしょう。
「まさかディアハウンドは来日していないだろう」と思っていたら、昭和初期の展覧会に出陳された記録を発見。
ついでにチワワの来日記録まで見つけてしまったので、戦前の日本は大小さまざまな洋犬を輸入しまくっていたことが分かります。
同會は去四月二十七日より廿九日迄三日間、上野公園池之端産業館に於て開催せり。従來の共進會は毎回天幕張にて開催するを常とせるが、今回は三日間催すのみならず毎度天候不良の爲に苦しめらるゝ爲、苦心の結果此の大建築場内に於て開催することに定めたのであつた。場内は眞に理想的にして、先進諸國の會場に比較するも遜色なきと思ひつゝありしが、場内に依り光線の具合一定せず、且出陳時間も一定する能はず、未だ内地の發達状態に於ては、時の早きを思はしむるものあり。
其他今回はチヤムピオン賞を定めたりと雖も、未だ各方面に於て研究の足らざるものありしは誠に遺憾とする所なり。之れ又我犬界には此のクラスを設くるの猶早きと思はしむ。
今回の出陳犬は伏見宮殿下御愛犬英ポインター、コツカースパニエルを始め、英セツター、アイリツシユセツター、獨ポインター、グリホン、ブルドツグ、ブルテーリヤ、シエパード、グレートデーン、ボルゾイ、狆、スムースフオツクステリヤ、トーイフオツクステリヤ、ボストンテリヤ、日本犬、土佐犬、マルチーズ、ドーベルマンピエンシル、コリー、グレーハウンド、スコツチデーヤハウンド、セントバーナード、秋田犬等、弐拾四種にして、出陳縣別を示せば東京、八王子、埼玉、千葉、川崎、横浜、福島、山形、秋田、新潟、静岡、名古屋、三重、京都、大阪、兵庫、神戸等三府九市十二縣に達し、今回は従來出陳なかりし福島、山形、秋田等東北地方の出陳を見るに至れるは誠に喜ぶべき現象なりとす。協力一致東北地方の發達の一日も速からん事を切望す。
出陳犬中英セツター種は近年になき發達状態を示し、原産地に比するも遜色なからんかを思はしむ。品位の向上中にも腰部より後脚に於て發達の顕著なるものあり。誠に狩猟犬として望ましき現象である。此種愛好家は協力して猶一層改良を圖り、日本セツターとして永遠に誇るに足るものゝ作出に努力せられん事を希望す。
英ポインター種は今回も出陳數の第一位を占め、優秀なるもの少なからずと雖も、英セツターに比すれば甲乙の差多きを遺憾とす。外観實用兼備の優秀犬の益多からん事を望む。フオツクステリヤ種は一般家庭の番犬として大なる特長あるにも拘らず未だ其數の多からざるは不可思議とする所なり。此種愛好家の努力を望む。
ブルドツグ種は著しき變化なきも未成犬に優物を見受けらるゝは将來あるを思はしむ。獨ポインター種は毎回相當の出陳犬を見ると雖も、他種に比し進歩の遅々たるは遺憾とす。余輩に忌憚なく云はしむれば英ポ、英セは趣味者多き爲改良の速かなるに反し、獨ポ飼育者は實猟主義多く畜犬趣味の低きに依るべきか一考を要すべきなり。
コツカースパニエルは優秀犬のみなりしと雖も、未だ其數多からず。同種も増殖に勉められん事を。グレートデーン種は一、二見事なるものを認めたり。ボルゾイ種と共に特種の番犬として趣味者の多からん事を。其他シエパード種は近時流行犬として、玉石盛に輸入せられつゝあれど、優劣を知らるゝを恐るゝの結果にや未だ其數多からず。此種の長短は我畜犬界の爲他日大に論ぜんと欲す。
高久兵四郎氏も審査員だったのですが、記念撮影には欠席のようですね。
華蔵界生『中央畜犬協會第十四回全國畜犬共進會成績』より 昭和5年
第十四回全國畜犬共進會の開催風景。
この会場のどこかにディアハウンドが……、人混みとセッターしか写ってねえ。
で、同共進會の資料よりスコティッシュ・ディアハウンド「ロード號」の入賞記録をどうぞ。さすがに内地での蕃殖には至っておりません(ボルゾイなどは、大正時代から国内ブリード個体が流通していました)。
ちなみに、日本犬保存会の斎藤弘氏も柴犬の十石號を出陳していました。