和歌山署裏手に市川廣子さんが建立した犬の菩提碑の前で、野犬狩りを三年間やつて約五千頭を撲殺した花岡新次郎君が施主となつて犬の慰霊祭を催した。
「和歌山野犬の慰霊祭」より 昭和8年 9月4日
高雄の萩原重安氏明日(九月四日)一寸内地へダグラスで渡洋爆撃?に行つて来ると云つて、只今台北に依託してある愛馬と愛犬を見に來て記者の家に立寄られたが、萩原氏の渡洋爆撃は商用だから内地の方々よ警報の必要はない譯だ。
軍需工業で寧日のない同氏の愛犬ドルフ號は戰線にあつて部隊と共に各地に轉戰、最近の陣中便りによれば、七粁の長距離を傳令して我が國傳令犬否世界傳令犬の最高記録を作つたと云はれてゐる。
―台湾の南端高雄の犬が戰線にあつて此の活躍、記者などは自慢の言葉に苦む程である―萩原氏もこれでこそ献納の甲斐ありと實に満足して居られるが、台湾軍犬界の至宝ドルフよ、お前の生れは昭和九年九月五日だから明後日が第四回目の誕生日だ。武運長久をシツカリ祈つてやるからお前だけは最後まで鐡砲玉に命中つてはならないぞ。
今日僕の手許にお前の部隊は漢口まであと○十里だと云ふ便りが届いた。
またシツカリやつて、六月廿六日の戰闘で戰死したお前の戰友ギンペル、トツパ、ビービー、アルドー號のうらみを思ふ存分晴らしてはくれないか。
宮本佐市「台湾犬界戦時雑記」より 昭和13年