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12月3日の犬たち

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去ぬる明治廿六年十二月三日、我が東京獣醫學校に一患犬来たる。教師より實地開業練習の爲め生等に之が一切の處置を負擔すべしと命ぜらる。
稟告に曰く、只今外遊の際何者かの爲めに腰部に創を受け、后身不立となりたり。依て診を乞ふと。
直に之を診するに腰部の左側にて脊椎を距る凡そ五仙迷(※センチメートル)の處に半仙迷計の口径を有する稍々不正なる一創を認め、出血甚だしく(但、此際已に止血せり)創囲は勿論股の外面は全く凝血を以て蔽はれ、局所を按圧すれば疼痛を訴ゑ且つ僅かの腫脹と温熱を感ず。其他動物は一般に沈鬱し戰慄を發し體温稍々上昇、后身不立感覺を失し之に歩を強ゆれば后肢を地上に引き后身を左右に動揺し其状恰も鴨鵞の水を遊泳するが如し。又陰茎は常に陰筒外に顕出して間断なく少量の尿汁を漏泄せり。
局所を検するに刺創の観あり。其創口の大さに比して不相應に出血の多きと后身の麻痺著しきは尖鋭物の大血管を破壊し尚ほ脊髄迄達せむならんかざるにても局所の腫脹少きと且尖鋭物の斯く容易に骨壁を貫通し脊髄に達する理なきを以て考ふれば刺創にあらずし或ハ彈丸の進入せしにはあらざるやの疑を生じたり。
然れども刺創にせよ銃創にせよ果して骨髄にまで損傷を及ぼせしか。
若し然りとせば局處に惞衝を見る今、少しく顕著ならざるべからずと思惟し、不取敢探子を以て創底を検せんとせしに、創深くして充分に創底を探るを得ず。勢ひ切開を施さゞれず察病を確むる能はず。
由りて之を畜主へ謀るに、畜主は該犬を愛憐する餘情更に之を肯んせず。
切に他法に由りて治を受けんとを乞へり。
此に於てか思へらく其原因は何物にせよ局所の状態より之を推せば単に腰椎近囲の炎にして後身不随ハ一時の影響に過ぎず、然して其原因果して銃丸なりとするも其銃丸は火薬の爲めに消毒せられ存するを以て生体に對して左まで有害物ならざるとハ平常外科學及「クリニツク」上に於て聴聞せる處なれば患ふるに足らずと、乃ち畜主の乞に随ひ之に對する療法(但、神経衝動薬も共に)を施したるに日ならずして諸徴候減退し、創口の如きも二週日餘にして全く癒合せり。然るに后身の不立と排尿の異常とハ依然として毫も變化を見ず。
因りて更に強力なる神経衝動薬及電氣療法等を百方轉用すれども一として寸効なく、延て本年一月中旬に到るも猶ほ荏苒として快復せざるのみならず俄然右眼に角膜翳を併発したるを以て、畜主も遂に治し難きと断念し寧ろ之を撲殺して永く苦痛を感ぜさらしめ且つ諦めの爲め局處を見んと乞ふる。
由り撲殺後剖検を行ひたるに左の状態を呈せり。
先づ局所の皮膚を十字形に切開し、筋肉を現せしに創孔は已に形器質を以て填充せられ全く癒合して特に意を注ざれど殆んど之を知る能はざる程にして尚ほ漸々筋肉を剥離し深部に進みしに、第四腰椎に接近せし處に於て僅かに空所を存し少量の淡黄色にして繊維に富める粘稠沕乙液様の液を含蓄せり。
試みに探子を以て創底を探りしに探子は脊椎を通じて右側に出て脊椎を距る左側の者と仝距離の處に到て止まれり。依て更に右側に付き皮膚及筋肉を切開し検せしに、左側の者と仝様の液体を含蓄せり。
然るに探子の停止部を検するに一物だも目撃する能はず。茲に於て大に奇恢の思を爲し其近傍を精査せしに、果せる哉探子停止を去る凡ろ一仙迷の處に一小彈丸を發見したり(其彈丸は筋層間に潜伏せり)。
次で腰椎を検するに第四腰椎左翼の基礎より進入して右側斜突起(関節突起)の上方に通ぜり。而して脊髄は僅かに傷害を受け左側の神経は僅かに損傷せられたるのみにして其他内臓に於てハ殆ど變状なく僅かに腎の貧血を認めし而已。
以上の状態に依て考ふれば、彼の沕乙液様の液体は漸々其水分を吸収せられ遂に化して癒合組織を造爲すべきものなれば、此の患畜にして若幸に脊髄に傷害徴りせバ漸々日を追ふて全く治癒するを得たるやも計られざりしなり。
然りと雖へども其始めに方り充分其部に切開を施して之が察病を確めざりしは一は畜主の承諾なきに基くとば云ひ后身付随の状態に對して注意の充分ならざりしは今に以て遺憾とする處なり。
因りて茲に新報餘白の割愛を乞ひ記して以て自ら戒め將來に過ちを再びせざられんとを期す。
東京獣醫學校生徒 五百蔵徳治「犬に於ける銃創の一實験」より 明治27年

 

帝國ノ犬達-高山犬 

台湾山岳砲兵連隊で訓練中のくり號(♀)。昭和11年

 

狩獵は何れの族を問はず皆好む所にして、従つて古より犬を飼育し、狩獵に使用せり。然れども、近時交通頻繁となるに従ひ、他犬種と交雑し、其の純粋なるものは交通不便なる奥地蕃社に之を求めらるゝのみなり。之が習性は飼育者に對し絶對服従し、山野の跋渉、特に斜坂の昇降に巧なることなり。
毛色は黒又は褐の単毛色を主とするも、下腹部及四肢下端に白色を混ずるものあり。
此習性を軍事的に利用する目的を以て高雄州屏東郡ライブアン社(臺東庁との境界)より牝牡各二頭の献納を受け、昭和十一年十二月三日、臺灣山砲兵聯隊に繋畜す。
彼等蕃人は殆ど薯を常食とするを以て、犬の飼料は更に榮養價値少なきものなり。されば着隊當時は生後五箇月(五月二十五日より六月三日までの出生)發育不十分にして、従つて栄養不良なり。依て普通飼料に慣熟せしむる迄には約二ヶ月を要せり。
此間環境の變化により疾病、特に犬瘟熱(※ジステンパー)に罹るもの多きを以て、之が豫防接種を行ふと共に、數回に亘り駆蟲を行ふ。
本年一月より正規の訓練を實施し、目下概ね基礎訓練を了し、咥搬は不十分なるも、生地約一粁の傳令能力を有し、概ね軍用に適するものの如し。然れども、人に對する親和容易ならざるを以て、兵の交代により其の訓練を或程度に破壊する處あり。又犬體小にして體力十分ならず。其の平均體高四三.○○糎、平均體重一三.三六瓩なるも、着隊當時は削痩骨立し、平均體高三一.○五糎、平均體重四.ニ五瓩なり。一般外貌寫眞の如し。
台湾軍獣医部による台湾犬の評価より 昭和11年

 

 

平林家畜病院『狂犬病予防注射控簿 昭和十三年十月廿七日以降』より

昭和13年12月3日診察

 

 

平林家畜病院『狂犬病予防注射控簿 昭和十三年十月廿七日以降』より

昭和18年12月3日診察 (同名ですが、昭和13年診察のチビとは別の犬)


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