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Channel: 帝國ノ犬達
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2014年2月度月報

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出久根達郎の「古本綺譚」に、「お詫びのしるし」という短編があります。
この話に登場するのが、「Sさん」という十円均一の古本を買い漁る男性。
映画の助監督をはじめ職を転々としたあと、彼は姿を消します。
音信不通となったSさんの部屋へ踏み込んだ大家が見たのは、アパートを埋め尽くす大量の古本でした。
保証人を引き受けていた古書店主をアパートへ招き、大家の女性は不安げに語ります。
「Sさんはあの本だらけの部屋のどこかに隠れているのじゃないか」と。

マンガやラノベや電子書籍を含め、新刊本を買わなくなって久しいのですが
反対に古本は増殖を続けており、部屋を占拠している本の総量自体は変化しておりません。
Sさんは「なまの資料だ」と言って古新聞を蒐集していましたが、同じ理由で私も集めています。
日々の国際情勢や政界の動向から殺伐としたニュースに地域の情報、スポーツ・経済・天気予報・お悔やみ・就職口・商品の広告までが一堂に載っている媒体って新聞くらいですからね。偶に犬のニュースも見つかりますし、歴史の一頁を切り取るには最適の資料です。
大学時代の4年間、ヒマにあかせて明治から敗戦までの新聞を通し読みしたことがあって、貴重な青春を阿呆なことに費やしたと後悔しているのですが、後年このブログを作る上で大変役に立ちました。
歴史とは「物語」ではなく、雑多な出来事の積み重なりだという捉え方はあの時身についたのでしょう。
いつしか犬の近代史もそのような視点で調べるようになりました。
で、戦前の新聞なんかをチマチマ集めていると結構な量になってくる訳です。スキャンして処分しようにもサイズがでか過ぎて不可能なのです。古本と古新聞が混じり合って、生活スペースを侵食し始めるのです。
これではイカンと時代別に資料を整理しても、江戸、明治、大正、昭和、平成と地層をなす古書はやがて山の如く聳え立ち、それを抜き出したり戻したりしているうちに山体が傾き始め、ついにある晩ずどどどどと崩落し、それによって永らく行方不明だった文庫本が地表へ露出したりして、部屋に居ながら地学を実体験できるとは素敵だなあと思ったりします。

冒頭のSさんみたいにならぬ様、そろそろ何らかの対策が必要なのかもしれません。いつしか部屋が本で埋まり、自分の居場所が無くなる前に。
先程も本の山が崩れ落ちたのですが、永らく行方不明だった「古本綺譚」もそのとき発見しました。


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