過日御照會の「犬舎銷夏設備」の御返事が大變おそくなつて済みません。
實は其の銷夏設備を當犬舎に作つてゐる最中に、右手首を足長蜂にさされ、執筆どころか全然右手の自由が利かなくなり、漸く今朝から筆を持つ事が出來る様になりました。
蜂に蟄されると随分ひどいものですね。
犬舎銷夏法二、三
梅雨が明けて太陽の直射が強くなると、犬舎自體が熱くなり、犬は犬舎へ入るのを嫌ひ、コンクリートや土の上を好んで寝る様になります。
煉瓦敷の上や、コンクリートの上で寝起きする、床に始終触れる膝や臀部が俗に座り胼胝と云つて、其處丈け毛が抜けて皮膚が厚くなり、見苦しく成る事が有ります。
出來得れば丈の高い樹木を植ゑ、尚犬舎の屋根の上に葦簾を張つてやるのが一番良いと思ひます。
其れから運動場には厚さ一寸位の板で、長さ一間幅四尺高さ三尺位の固定した粗末なテーブルを作る事です。
之れは非常に便利な物で、晝間暑い時は犬は之の下で休むし、冬はテーブルの上は日當りが宜いので、犬は喜んで上に揚り、又眺望が良いので警戒にも宜いのです。
又犬に櫛やブラシをかけるのにも至極便利ですから、是非御奨めしたいと存じます。
其れから最後に食事ですが、成犬なれば普通朝夕二回給しますが、夏は朝は極く輕く、夕食に十分與へる事が必要です。
以上、思ひ付いた事二三御答へ申します。
『犬舎の銷夏施設・夏を涼しく過させる工夫(昭和15年)』より
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小川章二(大阪)
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