生年月日 昭和8年生れ
犬種 柴犬
性別 不明
地域 東京市
日本犬はいゝですな。何處つて一々説明するのは大変だが、とにかくいゝ犬ですね。
僕は日本犬の中でも小型な犬が好きです。小型の犬はチヨコマカして、あつちへ行つたり、飛んで跳ねるところが面白いんです。
僕の柴犬は三歳、こいつが僕が出て行くと足にからまつて仕様がない。仕様がないと云ふかが、實はこんなことが無性に嬉しいんですな。
西洋の犬も嫌ひではありませんよ。しかし何處かワイルドの日本犬に一番心が惹かれるのです。愛玩犬として飼ふのが好きで、まあ日本犬の三分の二は愛玩犬として飼はれてゐるのでせうな。
名は毛野です。秩父の山から研究室の久米君が連れて来て來てくれました。
「先生の所へは妙な日本犬は置けません」と云ふことで呉れたので、これは實際名犬ですね。相當の犬ですよ。
但し毛野は臆病な所があつて、猟には適しない。
それで猟師が手ばなして、僕の所に落着いた譯ですが、毛野と云ふのは八犬傳の八犬士の名を借りたものの、うちの毛野はさう強い武士ではないことになります。
犬の名は八犬士の名をづツとつけやうと思つて、前には信乃―犬塚信乃ですな―がゐたが、今では代つて犬坂毛野がゐるのです。
八犬傳は好きかつて?好きですね。
しかし昔読んだので、實は大分忘れちまつてゐるんです。あつは、は、は。
板垣四郎「日本犬」より 昭和11年
因みに、先代の信乃號はこちら。彫刻ですけど。
帝大農学部の板垣教授と久米清治氏は、このブログでも度々ご紹介しております。
フヰラリア研究会のリーダーとして、また日本犬保存会理事として、板垣教授は日本犬界に多大な功績を残した人物。その辺の話は置いといて、今回は愛犬家としての一面を載せてみました。
堅苦しいフィラリア研究の論文ばかりでは、こういう人物像を知る事はできませんから。
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毛野(愛玩犬)
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