王子製紙から同社の朝鮮工場で、試用すべき警邏犬の斡旋方を依頼されたが、先づ最初牡牝各一頭なので、東京丈けで募集して見た（條件、血統、体型の良否を不問。大胆にて殴打発砲に怖れざるもの、價格二百圓以内）。
應募犬五頭で、七月十二日其の試験を本部事務所で挙行した（参加三頭のみ）。
然るに残念な事に、三頭とも全然大胆性不足で不合格と成つて了つた。
体型も相當良く、血統的にも有名な犬の子孫であり乍ら、何うした事だらうと不思議に思はれる程だが、メンツエルの所説やザツクス博士の主張する新計畫蕃殖等を想ひ比べて見ると、獨逸本國に於ても此の種の稟性缺點が相當強く蔓つて居るものと想像されるのである。
シエパードの如き作業犬に於て、其の稟性の中でも最も上位に或る可き勇気、大胆性に缺くる所があれば、而して斯くの如き犬が多数に存在すると成れば、夫れは犬種の凋落の前奏曲とさへ看做す事が出来る。
獨逸の先輩諸氏が既に此の點を憂慮して、之を未然に防がんとして努力しつゝある現状を想起し、吾々S犬フアンは、細心の注意と警戒を以て今後の蕃殖、淘汰、飼育、発育に當らねばならないと思ふ。
夫れが為めには、S犬の真の勇気、真の大胆性を明確に理解し、其の有無を看破するの眼識を養はねばならない。
日本シェパード犬協會
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工場警邏犬購買失敗 昭和11年
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