ウサギやイノシシの毛皮を献納する「狩猟報國」「毛皮報國」の大義名分のもと、大手を振って狩猟に励んでいた戦時下のハンターたち。
しかし、彼らも戦時体制から逃れることはできませんでした。狩猟税が値上げされ、物資不足も次第に深刻化し、配給される弾丸や薬莢の量、猟犬の飼料確保に厳しい制限がかけられたのです。
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流行の新體制が何處まで發展し、如何なる善政が布かれるか知るよしもないが、新體制をとる事によつてよき制度が實施され、遺憾なき統制が行はれるものならば、日本の狩猟界なども須らく新體制に依つて新しくスタートせねばなるまい。
小役人の机上作製に盲従せねばならぬやうな現状を打破する事の急務なるはいふ迄もない。
大日本聯合猟友會といふやうなものは現存するのか、現存するとせば如何なる事業をなしつゝあるか。府縣猟友會は多少活動してゐるやうであるが、顕著なる事業の一例は兎皮羽毛の優秀献納者に木杯や賞状を贈呈したに過ぎないのではないか。
真實報國狩猟の為め、霰弾やケースの資材に就いて當局と懇談し、その配給に就いて深甚の考慮を拂ひつゝあるか。
猟犬の配給米に就いて意を用ひつゝあるか。
猟場で猟人以上の活躍をする猟犬も、喰はずには生きてゐない。犬を殺して節米をと提唱した人の話は歯牙にかけなくとも、税金を徴取して存在を肯定してゐる畜犬に對する統制は刻下の急務ではないか。
更に地方に公然と行はれる畜犬の撲殺行為、これは警察官にも一部の責任はあるが、上層問題として決して看過さるべきではあるまい。
地方の狩猟家は、これ等犬殺しの横行に戦々兢々として、警察に訴えても何等の反響がないから、吾等は吾等の愛犬を自衛するほかない。
犬殺しが立廻つたら、容赦なく叩き伏せると悲壮な決心を語つてゐる。野犬と雖も人前で撲殺するやうな非人道的な行為をしてよいわけのものではない。
しかも畜犬票をかけてゐるものでも、時に此の厄に遭つて最期を遂げた例が屢次ある。打殺して首輪を隠蔽してしまへば抗議の餘地がないからである。
これは必ずして猟犬に限らぬ事であるが、一般の畜犬家には團體もなく勢力もないから、狩猟團體が代表して厳重に其の筋に抗議し、取締らねばなるまい。この任務を遂行すべきものが、府縣猟友會であるべきはいふまでもない。
霰弾、ケースの資材についても、當局に懇談すれば何んとか流用して呉れるに相違ない。無論軍事資材に影響するが如きは自ら遠慮すべきであり、そこは適當に判断してしかるべく、吾等が銃後のつとめを果し得るやう協力せねばならない事はわかりきつてゐるが。
配給霰弾が前年度の兎毛羽毛の成績、或は狩猟期間に於ける前月の成績に依つて配給の多寡が決せられるやうに聞き及んでゐるが、かくては一度不成績をとつた猟友會は何時までも成績が擧らぬ結果を生じはせぬか。
優良なる成績を収めた猟友會に賞として特別配給のある事は已むを得ないであらうが、成績不良の猟友會に配給弾を減少すれば、ます〃成績は低下するに相違ない。
飛田穂洲「銃猟新体制の要望」より 昭和15年