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Channel: 帝國ノ犬達
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上海畜犬界

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初めて訪れた上海は高層ビルが林立する近代都市と化していて、「太陽の帝國」に出てくる魔都のイメージを抱いていた私は酷く幻滅したものです。夜の街頭にはレーザーポインターの行商人がウロウロしていて、ブレードランナーっぽいなあとは思ったのですが。

僅かに残る旧い街並も、都市区画ごと立ち退きの真っ最中。

 

かつての上海は、東洋における洋犬文化の窓口でした。青島、長崎、神戸、横濱と窓口が広まった結果、東洋の果てに西洋の犬が溢れ返ったのです(在来犬にとっては惨事でしたが)。

中国の近代畜犬史を日本より格下にイメージする人が多いんですけど、実際は逆だったんですよね(但し、上海の裕福層に限る)。

 

 

上海デニスチエン氏の話が出て居たので、之れに関聯して同地の畜犬のの状況を記して見よう。但し以下述ぶるところは、私が調べたわけで無く、最近同地から帰つた方から材料を得た事をお断りして置く。

 

上海に於ける畜犬の頭數は租界に約一萬四、五千頭であつて、その中約三割はシエパードであるが、其の他は人間と同様種々雑多の犬種が交錯してゐる。左にその種類と相場を掲げてみると。

 

1、シエパード 二、三十弗―四、五百弗

2、グレーフアウンド 十弗―五百弗

3、セツター(ゴールドン・セツター、イングリツシユ・セツター、アイリス・セツター) 二、三十弗―二百弗

4、ポインター(イングリツシユ・ポインター、ドイツ・ポインター、グリホン) 二十弗―二百弗

5、スパニエル(イングリツシユ・スパニール、コツカー・スパニール、ウオーター・スパニール) 五十弗―三百弗

6、チヤーウス・ドツグ(廣東犬) 十弗―五十弗

7、ピンチ(ロシヤ) 

8、ブルドツグ(ボストンテリア・イングリツシユ・ブルドツク、フレンチ・ブルドツク) 五十弗―三百弗

9、テリヤ(ホツクス・テリア、トイ・テリア、ワイヤー・フオツクス・テリア、スコツチ・テリア、アイリリシユ・テリア)

10、ダツクス・フンド

11、エヤーデル・テリア 五十弗―二百弗

12、グレートデン 四、五百弗(?)

13、フレンチ・プードル

14、ペキニス(北京狆) 十弗―五十弗

15、狆(日本)

16、メキシユ・ドツク(メキシコ)

 

價格は同じ種類も犬に依つて非常に違ふのであるから、あまりアテにはならない事勿論である。グレーフアウンドは御承知の如く、上海名物の競争に用ひられるので、相當のものが居る事は想像に難くない。その頭數は約一千頭と称す。

又シエパードに就いては、デ氏が名犬を所有せる事はあまりに有名であるが、面白い話は今回の戰(※第一次上海事変のこと)で十九路軍もシエパードを持つて居つたとの事である。之れは所謂持つて居つたと云ふだけで、活用したと云ふわけではないらしい。そして勇敢(?)なる兵隊と共に捕虜になつたものもあつたが、その程度も饅頭笠を背負つた兵隊さんに匹敵してあまり上等では無かつたとの事である。

 

※ここに出てくるチイナースポイルのことね。

https://ameblo.jp/wa500/entry-10398098126.html

 

上海に流入する系統はドイツ、イギリス、フランス、オーストラリア、ロシヤ等であつて、人間と密接な関係にある事が窺はれる。

次に野犬の取締りは工部局が之に任じ、一週間二回捕獲自動車を以て共同租界内のみ野犬を捕へて居る。この自動車には人夫が附て居り、長さ二米餘の竹の中に針金を通し、先の方に輪を作り、之を野犬の頸に引つかけて自動車の中へ収容する。そして一定の野犬収容所に一週間留置する。その間に引取人ある時は五弗を支拂はしめ、一ヶ年間有効証と共に犬を引渡す。若しこの期間に引取人が無ければ之れを毒殺する。

而し英租界と雖も徹底的に野犬狩りを行ふのでは無く、寧ろ飼主のある良い犬を捕獲し、幼犬や皮膚病の様な犬は決して捕へない(大きな聲では申されぬが、手近の何處かの國でもこんな傾向は無いこともない)。

 

因に租界内の畜犬で約二割五分は無鑑札、支那租界は總て無鑑札である。大体以上の様な話であるが、冒頭に申上げた様に請け賣りの話であるから、彼の地の實情を御承知の方、又は上海の方は誌上に於て御垂教を切望する。

 

陸軍歩兵大尉 筑山博一「上海に於ける畜犬」より 昭和7年


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