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Channel: 帝國ノ犬達
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戦時下のコリー・その2 事変勃発

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洋画家の三上知治画伯が熱烈な愛犬家であったことは、当ブログで取り上げてきたとおり。日中戦争が勃発した後、このように記していました。

 

 

顧れば去る七月盧溝橋に端を發したる今回の支那事変は爾来數ヶ月炎天の下、朔風に、黄塵に、雨に泥濘に寒氣に、皇軍は奮戰又奮戰多大の効果を収めて支那軍閥をして遂に屏息せしむるも時日の問題となるに至つた。

我軍将士の苦労は言を俟たず、吾々の肝に銘して忘れ得ぬ處である。

 

それにつけても我が軍用動物の涙ぐましき活動勤務は、新聞映画等に現はれる毎に家畜に深き関心を持つ吾曹にとつて最も強く胸を打つものがある。人ならば征討の意味が解る。併し乍ら動物は只主人に忠ならむ事を願ふのみである。

唯其主人に對する愛慕の純情に依つて弾丸雨飛の間に活躍して、人にも劣らぬ働を為し甚大なる勲功を建てるのだ。

 

彼欧州大戰に於て聯合軍側では軍用犬としてコリー種を用ひた。テリヤ種も用ひた。そして多大の効果を収めた事は云ふ迄もないが、我が國は未だ軍用犬としてはシエパード、エヤデル、ドーベルマンを指定したるに過ぎず、軍用適種犬としてコリー種、日本犬種、グレートデン種等は未だ訓練犬としてして採用されては居らぬけれども、コリー種は怜悧機敏戰争有用の犬たる事は争はれぬ。

其長毛美容のみを見て単に優堕なる観賞犬とのみ考ふるは、外観のみを見て真相を知らざるも甚だしい。物は見かけに寄らぬ事が多い。短毛の脊躯ドーベルマンが長毛のシエパードよりも寒氣に強い事は實験者の親しく語る處である。只シエパード愛好者が耳を掩ふて其言を聞かないのである。我々は満洲北支の厳寒地帯に働く軍用犬としてコリー種は最も適したる犬種たる事を信ずるものである。

 

併し乍ら我國に於けるコリー種は第一に數が寡ひ。歴史が新しい。従つて飼育者にして、犬を訓練して居る者が甚だ寡い。是はコリーの如き怜悧なる犬を所持する愛犬家として頗る惜しむべき事態と言はねばならぬ。

宜しく此犬種の本質を理解してコリー種を単なる愛玩犬たらしめず使役犬としての其本領を發揮せしめる事が飼育者の責務であらう。

人或はコリー種は他に重大な用途がある。牧羊犬としては正にコリーを措いて他に適種を求め難いといふ者があらう。誠に至言である。併し乍ら日本に於て緬羊の大群を飼育するもの幾十百あるであらうか。コリー犬が牧羊犬として活躍するに足るべき牧場は、現在に於て甚多しとしないのである。更に何年を経つて外國から羊毛を輸入しなくとも良い様な時代が來たならば、其時こそはコリー犬は牧羊業者から引張り凧となるであらう。

 

牧羊にコリーは不可分の関係にあるが故に、我々は今よりしてコリー犬の資性を發揮する事に努力するの必要を強調したい。単なる愛玩犬、お座敷犬として何等の訓育も施さず無為徒食の犬を仕立上る事は我徒の執らざる處である。如何に美なりとも愚なる犬を代々蕃殖する時は遂にコリー犬無能の歎を發ぜしむるに至るやも計り難い。

希くばコリー種愛好者諸賢は小學校一年生の氣持を以て焦らず怒らず、序々に其所有犬の稟性を有効に發揮すれば必らず怜悧な犬になるとの信念を以て愛育訓練する事に勤められ度い。我々は好い犬を作る事を目的として邁進せねばならぬ。

 

三上知治「近時所感」より 昭和12年11月

 

開戦前には日本陸軍もテストしていますが、コリーが軍用候補犬となる事はありませんでした。要するに戦場向きではなかったのです。

第一次大戦ではイギリス軍がコリーを運用したものの、コレは軍用犬が足りなくて国中から雑多な犬をかき集めた結果によるもの。

第二次大戦でも、アメリカ海兵隊が編成した軍用犬チームに一頭だけラフコリーが混じっていたそうです。炎暑の南太平洋戦線へ投入されてしまい、可哀想に熱中症で死亡したとか。

三上画伯の仰る通り、コリーは羊相手に働くべき犬なのです。


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