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Channel: 帝國ノ犬達
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探偵犬出動・早稲田大学生殺人事件 大正3年

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明治43年、台湾総督府・朝鮮総督府は警察犬を採用。

それに続いて警視廳も大正元年に直轄警察犬制度を採用します。担当を命じられたのが、愛犬家の荻原澤治警部補(この資料では「萩原」と記していますので原文ママ)でした。

警部補はスコッチコリーのバフレー號、レトリヴァー雑種のリリー號、グレートデーンのスター號、ブラッドハウンドのヒーロー號、エアデールのリキヤ號・メリー號などの寄贈を受け、「探偵犬」としての運用を開始します(シェパードが来日するのは大正3年の青島攻略戦以降)。

しかし鑑識技術が未発達の時代。捜査員たちは現状保存など御構い無しに現場を踏み荒らし、後から到着した警察犬たちはぐしゃぐしゃになった臭跡を前に空振りを繰り返すこととなります。

新聞は「探偵犬無能」と書きたて、台湾警察犬チームが活躍する陰で東京の警察犬制度は大正8年に廃止されてしまいました。

 

 

調教主任の萩原警部は機會があつたら、一つ實地に使つて見たいと思つて居た折り、丁度發生したのが過日の浅草門跡内の、早稲田大學生殺しである。

事件の發生は、午前の二時過ぐる頃であつたが、本廳からの報に接し、一犬を引率し現場へ駆着けたのは、數時間後なる午前九時頃であつた。兎に角と先づ凶行現場へ入つて、畳に付着して居る血痕や、其他の臭氣を嗅がして犯人は何れの方面に逃走したか、辿らせ様と命令した所が、犬は頻りと鼻を突きつけて、辿つて行く其の行先は何所かと見れば、同家の下女の所へ許り行く。

ハテ審かしやと、段々取り調べて見ると、凶行後下女が雑巾を以て、血痕附着の畳を、再々掃除したので、犯人の足跡の臭氣は略ぼ消えて、下女の足跡並に手跡の臭氣が多くなつて居た。夫故斯く下女の許へ行くことが判つた。

依つて今度は、何んぞ遺留證拠品でもと思つて、界隈捜査を命じた。注目して見て居ると、日光の當る所へ行くと、鼻をグイと上げる。之れは日光の爲め臭氣發散して終つて臭氣がないからである。

夫れで最早駄目だなと思つて見て居ると、日陰の所へ行つては又も鼻を突き付け辿り始めるので、之はまだ望みがあるなと見て居ると、又日光の當る所へ出て前の様に上げる。

斯く幾度も試みたけれども、一物も得なかつた。

然し遺留證拠品は四、五點あつたが、夫れは既に全部發見して引上げられた後であつて効果を得なかつたと判つた。斯くして好果は得ずして引上げたが、犯人は間もなく逮捕せられたのである。此の實験に於て今後の教練上に大に得る所を得た。兎に角事件が發生したなら、成るべく現場を荒らさぬ様にして置いて貰いば、確かに得る所が尠なくなからうと思ふと語つた。

村上鐵造『探偵犬の使初め』より


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