昭和6年の満州事変を機にシェパード界から勃興した軍犬報國運動は、ドーベルマンやエアデール団体にも波及していきました。
各畜犬団体を帝国軍用犬協会の傘下に入れるための動きも活発化し、青島シェパードドッグ倶楽部や日本ドーベルマン協會は次々と合併されてしまいます。
日本シェパード犬協會や日本エアデールテリア協會は抵抗を続けますが、周囲からの圧力は高まる一方でした。
日中開戦半年前の状況をどうぞ。
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役員會(十二月八日)
於銀座末廣
出席者 中元、池野、坂上、野田、鈴木、金澤、杉山、高橋、許斐の各理事及森田監事
先づ中元理事長より本年度納めの會としての挨拶があつた後、明年度の計畫に付各役員の意見開陳方求めらる。結局議題に上り決定せるもの左記の通りであつた。
一、明十二年一月末例會を兼ね新年宴會開催のこと。
一、明十二年十月にエアデールテリアの訓練競技大會を挙行すること。但し出場犬資格は限定を加へず廣く會員外のエアデールも歓迎すること。
一、會誌に會員所有犬寫眞を順次掲載するこゝとし、以て各時代に於けるエアデールを観るの好資料となす好材料となす様努めること。
一、會員所有犬の譲渡又は譲受に付會員の便宜を圖り適當に會誌利用の途を開くこと。
尚席上坂上理事より、豫て理事長からオリンピツク委員として獨逸へ赴かれた一又安平氏に依頼し、RDH(※ナチスドイツ畜犬連盟)會長グロツケナー博士に面會し、獨逸犬界の状勢聴取方依頼し置きたるも、生憎同氏は大會直後急遽赴佛渡英の要出來、乍残念目的を果し得なかつた御詫びの返事を披露する所あつた。又席上今月の犬の研究誌上に掲載したるエアデール統制強化の座談會なるものに付、之に出席せる中元、野田、池野、高橋の各理事から、その真相を一應別項「参照」の通り聴取した。
(参照)
前記十二月八日の役員會席上話題となつたエアデールの統制強化の座談會記事に関し、一見如何にも何か協會より話を進め居る哉に誤解されるので、之に出席せる各理事からの御話及之に関する談話要旨を御参考迄に左に掲ぐることゝする。
野田、池野両氏は同座談會終了間際に出席せられ、且つ中元氏も前二者同様、犬の研究社およびドツグ社主催の同座談會は、今や我國人氣の集點であるエアデールの、単なる座談會と思考して出席したる旨御話あり。そこで一同期しずして、高橋理事の説明を求めたるも別段の御話なく、結局役員一同は同座談會は雑誌の日頃その主張とせる犬界統制問題に就ての一つの試みなるべしと推察した。
その際許斐理事は發言し、この種の話は決して今に始まつた問題ではなく、本協會の設立以來、過去他より働きかけられたる事例として、當時歩兵學校附某軍医より、又帝犬設立當時に於ける本協會との経緯、今田氏の関係せられた全日本エアデールテリア倶楽部なるもの及日本カナイン倶楽部等より、種々提案があつた場合に對し、その節本協會の採りたる處置態度に付披露し、且つエアデールの現状より本犬種の真の温床、換言せば慈母の心を以て子の成功を見守るエアデールの會の必要性あることを説き、且つ國家的見地より犬界統制方法或は血統書等の問題に就て述ぶるならば、単に犬を知れる関係両當路に於て、赤誠を以て實質的に問題を折衝せば、自ら提携の途開ける筈で、大した問題でもないと附言し、但斯様な問題を講ずるには自ら順序がある、而も本協會としては種々主張はあるも、目下他へ助を請ふべきは何等の事故を存在せず、協會訣立の趣意には悖らず年々堅實なる發達を遂げつゝある事は衆知の蔽ふべからざる事實である。
何れにしても會員の絶對信頼の下に推薦せられたる役員の言動は、エアデールの本質を把握して無私公平、責任を以て慎重には慎重を期し、以て會員諸兄に應へなければならぬ當然の理から云つても、今度とも御互に戒心を要すると、切々として述ぶる所があつた。
中元理事長は笑つて之を制し、本件は何等具體的な問題ではなく、単なる話題で、未だ表向き協會の議題とすべき程のものでないと述べ、結局本件の談義はその儘打切りとなつた。
日本エアデールテリア協會