叔父は伯母と真輝子を伴れて旅行に發足。留守居の私を驚した重大電話。フロツト號、發つ。
すは大變、京都迄出迎へねばと思ふのですが、留守居無し。仕方なく案じながら富田さんよりの到着電話を待つ事にした。
午後九時五十分だつたか、ヂリヂリヂリン!
電話のベルが私を飛び上がらせた。
奥さんの聲で
「元氣で來てくれましたよ!」
「やれやれ」
「今ね、家族總出で驛まで出迎へてやつて歸つた所ですのよ」
(ドウモ具合が尋常デナイ)
「僕見たいな」
「いらつしやいよ。犬が二頭も居て留守が心配なのですか?そんな犬」
(ドウモ、ケンマクが荒い)
「でも犬は電話口へ出たりお客様のお相手をしてくれませんから」
(ト數回押問答シテ)
「矢張り、責任上留守居をしてゐますから多分明後日にはお伺ひします」
夜十一時。
奥さん「今ね、目方を量つたら一貫三十匁。元氣無し」
犬聲子「若きFLOTを京都に迎へて」より 昭和9年8月20日
。