十月三十一日
暁發獨り紅賽山に登りて戰況を遠望す。彼我の砲彈發又發其光景言ふべからず。ノートを収め歸途につく。
一里餘にして滿洲犬の包囲に遇ふ。大喝すれども去らず、石を投ぐれども逃ず、棒打すれども寸毫も動かず、牙を現はし咆吼しつゝ我に向つて迫る數尺、腰間のピストルに彈を込むるに暇あらず、百計盡き、遂に君子危きに近らずの法を取つて一散に……。
日露戦争従軍記者 蘆原緑子『繪畫日誌』より 明治37年
『東葛家畜病院亀戸分院『診察簿 大正十二年六月二十一日以降』より
大正12年10月31日診察
荻窪方面の會員有志が集つて此度城西軍用犬警察犬研究會が生れた。去る十月三十一日、西荻窪に於て盛大な發會式を挙げ、式後養成所から派遣せられた上継訓練士とシトー號の名コンビの訓練実演が行はれ、場を取巻く三千の大観衆の絶賛を浴びたが、同會は家庭犬としてのシエパード、ドーベルマン、エアデールを、警察犬として、又軍用犬として有能ならしめる爲に特に訓練に力を致すと共に、會員相互の親睦をはかる事を目的とし、毎月一回宛例會を開く外、会報の発行、訓練場の整備等活發な活動を開始した。
會長には澤田博士を推し、事務所は杉並區上荻窪町七六○番地平岡好正氏方に置き、會費は一ヶ月五十銭、但し成るべく月例會の時御持参願ふと云ふ肩のこらない会合である。城西方面の有志の御入会を極力希望してゐるとの事。
昭和12年