もう幾つ寝るとお正月的ネタ。
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元日ちよつと覗かせた雪の横顔は、支那からの陽氣の密輸入で、すつかり崩れた後は、曇、雨、々、々……。
仕方なく、出そびれてゐると、三日の晩或るよんどころない向きから、君とこのセタを一日貸して貰ひたいと強面の使ひが來た。よんどころない向きが獵をするとは聞かなかつたが……、と事情を聴くと、五日の新年の集りに令嬢達がやる餘興に干支に因んで「羊」が一疋入用なんだが、本物はむづかしく、さりとて羊の縫いぐるみを着て、人間が四ツ這ひになるのもアナクロすぎるので、それをうちのメリーに代役させようといふのだ。
いやとも云へず、澁々貸してやると、五日の夜遅くに犬は戻して來た。
引紐に添へた水引包を開けてみたら十圓はいつてゐた。
豪いよメリー、これでいゝ犬舎でも拵えるんだ。と云つた迄はよかつたが、さて翌朝になると迚もひどい下痢だ。
しまつたと感付いた時は後の祭り。察しの通り、其の晩、ボール紙の角をメーク・アツプしたメリーが餘り上出來だつたので、喜んだ令嬢達は手ん手に、餡パン、海苔まき、サンドイツチ、チヨコレート、キヤンデー等々を、しこたま、それを亦よせばいゝのに、メリーのやつがウンとぱくついたのであつた。
お蔭で春の獵は駄目!
「まさか紙までは喰はせなかつたでせうが……」と共の獵友は往診の獸醫にしみ〃とこぼしたことであつた。
池内興方『羊になつたセタ』より 昭和6年