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Channel: 帝國ノ犬達
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秋田県のジステンパー大流行 昭和10年

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一月下旬、突如として關東北地方に暴威を振つた日本犬への惡性テンパーは、殊に秋田地方に甚しき模様をラヂオの放送となり―。

傳へ聞きたるを以て、早速秋田犬協會の宮本彰一郎氏に御見舞旁々状況を伺つた所が、次の如き詳細なる御通知に接した。

 

1.御叮嚀なる御見舞御禮申上候

當地も昨年の如きはテンパー激甚にて、荒川村、豊岡村の如きは、一村の犬、一頭殘らず斃れ去りしところさへ有之候。

當協會は、多年組織的の作出を行ひ來りし種々の經驗により、聊か他に誇るべき設備もあり、且つは皆様御後援の御蔭と天祐にて、秋田犬、洋犬の種犬、仔犬合して百數十頭、一頭の罹病も斃死も無御座、現に先日も虎毛の牡は静岡に、白毛の牡は東京に、夫々發送致候も、何れも健全にて發育上々に御座候。

2.日本犬はテンパーには、洋犬に比して感染率は尠く候へども、一度感染せば、洋犬より耐病力弱きことは、山中の粗食の日本犬には致し方なきことに御座候。

然し畜犬的に合理的なる飼養管理をなせるものは亦、必ずしも左様に申し難く候。合理的と申しても、多年の間代々極端な集約的人工飼育を經て來たる洋犬の飼養と、同様の取扱はお門違ひに候。治療投藥の手心も、體質の洋犬と異るものに候へば、これが亦聊か異り申候。

極端なる例を擧ぐれば、ブルドツクも、テリアも、ポインターも日本犬も同様の飼養管理を行ふことの誤りなると同じに御座候。

日本犬保存會が其の附属犬舎に於て、一頭殘らず収容犬を斃し去つて、「理想的の犬舎」と「日本犬の粗飼粗食に耐ゆる看板」と「改良作出の夢」を、たちまちにメチヤクチャにした如きは、是等の畜犬的錯覺がもたらせる最も悲惨な極端なる例に有之候。

3.さりながら藝事にても、名人と下手との差は紙一枚と云ふ喩へのある如く、聊か僅のコツを飲み込めば、日本犬の飼養管理とて左様に六難しきものに非ず。

元來日本の氣候風土環境に何千年來適者として生存し來りし日本犬に候へば「名犬」の作出の可能性と飼養の容易は、やはり日本にては日本犬に候こと、多年の和洋犬飼育の體驗より愚考仕居候。

洋犬にては如何に頑張つても世界一となることなか〃及びもつかぬことに候。日本犬ならば、日本一のものを作出せば、世界第一人者たることを得申候。

鶏頭牛後の喩への負惜しみと云ふは此場合は當らず候。何となれば、日本犬の素質にはこれを磨ぎ出し鍛へとぐれば、洋犬に超ゆる卓抜なるものがあるが故に候。

たゞ、穏忍自重かのドーベルマン氏の如き目的に向つて鐡の如きブリーダーが、日本犬界に一人にてもあるか、なきかによりて向背の定ることに候(下略)

 

宮本彰一郎『秋田県を襲ふた惡性テンパーに關する詳報』より

 

「東京の日本犬保存会はジステンパーにやられたが、我が団体の犬は一頭も被害を受けていない」と豪語する宮本氏は、日本犬保存会と友好関係にあった「秋田犬保存会」ではなく、日保と大ゲンカしていた「猟犬系秋田犬協会」の所属です。

日本犬保存会や秋田犬保存会といった主流派に対し、北海道のアイヌ犬保存会、東北の猟犬系秋田犬協会、関西の日本犬協会は激しく反発。戦時体制下においても、日本犬保存運動が一枚岩になることはありませんでした。


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