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ペット医療と放射線 昭和14年

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帝國ノ犬達-レントゲン
東京獣医科病院にて(昭和13年)

我が国で犬の診断にレントゲンが用いられるようになったのは、大正元年からです。大磯の猟場で誤射された島津公の愛犬「カメ」に対し、レントゲンによる散弾摘出手術が行われたのが最初でした。

以降、犬猫病院や日本陸軍獣医学校では放射線医療が普及。骨折や誤飲の診断だけではなく、フィラリア症や妊娠の識別、さらには腫瘍への放射線治療も試みられています。

 

 

犬病にもレントゲンが次第に應用されるやうになりました。それ丈け犬の治療の進歩、向上を如實に物語り、犬自體にとつても大福音でありますが、レントゲンは設備費に高額を要し、未だ大衆的にこれを何人にも使用することの出來ぬのは殘念です。
又たとへレントゲンの設備があつても、高價のためその償却費を相當見積らねばならぬので、治療費も高價について、餘程犬に理解ある人は格別ですが、普通の病犬においそれと用ひられない恨みも屢々あります。

 

陸軍獣医学校で開催された第一回軍用犬健康審査會にて、レントゲンによる胸腔内の検査風景(昭和11年4月19日)

 

さうした矛盾はありますが、レントゲンによつて一命の助かつた犬は澤山あります。私の手がけた最も顕著の例は、かのドーベルマン種ジーガー、デジール號です。

まだ西宮城山ケンネルに獨逸から來て間もない頃の事ですが、どうも元氣がなく、食慾不振で、診斷の結果は腸カタルが慢性になつたものであらうと云ふことで、その手當を講じてゐましたが、一向はかばかしい結果がなく弱る一方なので、私のところへ参りました。

 

 

これが御影石を呑み込んだデジール號(昭和9年の広告より)

 

そこでレントゲンで檢べますと、大腸部位に二寸四方大の御影石がひつかかつてゐることが判りました。早速下劑をかけて、三日目に漸く排泄することに成功しましたが、それで腸カタルの徴候も漸次なくなつて元の健康體に復し、のち東京志賀氏に譲られたのは人の知る通りであります。

 

 

かかる例はいくらもあります。その一、二を申上げますと、これはワイヤー種でしたが、食慾が全然ないのでレントゲンで調べて見ると、よく小型のワイヤーが呑んだと思はれるやうな羊の頸骨を何時の間か食べて、それが食道にひつかかつてゐることが判りました。

 

 

又あるスコツチ・テリアの首環がなくなつて、どうしても見つからないので、レントゲンで調べると、胃部にちやんと収つてゐることが判つて、取り出したこともあります。

かかる異物を呑込んだ場合、現場を見てゐれば問題ありませんが、犬は屢々知らない間にいろいろなものを食べて、それが災をする場合があります。さうした場合、原因が判らぬため、往々間違つた診斷のもとに手當を行ふことがあるのですが、レントゲンを應用すれば忽ち明白になります。

 

 

又外傷を被つた場合、骨折、脱臼なども外觀、觸診では往々見落とす場合があり、たとへ判つてゐても、その場所、程度、骨折の具合等を見究めることは困難ですが、レントゲンをかければ、實に實物を見る通り仔細に判つて適切な處置を施すことが出來ます。

その他皮膚病、菌種等もレントゲンの照射で癒す事が出來ます。

これもワイヤー種でしたが、ある外人の犬がポリツプを病んでゐたのをレントゲンに十回程かけたところ、完全にとけて仕舞つて全治し、その後三年程も丈夫でゐて、他の病氣で死んだやうな例もあります。

 

妊娠犬の胎兒を檢出したもの。細い連鎖状の番號のあるものが胎兒の背骨で、これに依つて胎兒の有無及び數が判ります(東京獣医学校・遠藤智氏撮影 昭和14年)

 

以上は單にレントゲン療法の一、二の實例を語つたに過ぎませんが、レントゲンの應用範圍はその他にもいろ〃あります。

たとへば透視診斷等、科學の發達につれ、愈よ神秘的の機能を發揮して参り、今後犬の治療上にも大に役立つ時代の遠くないことを信じます。

 

出羽弘『犬病とレントゲン(昭和14年)』より

 

 

 


 


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