毎日毎日暑い暑い暑い。早く冬になりませんかね。
問
明治四十二年は 己酉の歳で明治四十三年は庚戌の歳でせう。 己酉だの庚戌だのは如何して定めるのですか(東京市・ワン白生)
答
甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸の十干と、子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥の十二支とを、甲子、乙丑、丙寅の順に配合して六十配をなし、之を年代の變遷、改元の如何等に關することなく順に年毎に當てゝ行くのです。
「學藝顧問」より
僕は犬が好きだ。犬を見よ。冬枯の木立に、銃先を向けて吾等が曳鐡に指を掛ける時、鋭敏な彼の眸は何處に動いて居るであらう?
パツチと丸が飛んで白烟邊りを包む時、早や彼の雄々しき姿が叢林に踊ると見る間もなく嬉々として尾を振り我前に獲物を捧げるのである。
一度家に歸りては夜更けて人籟寂寞の時も常に其耳と鼻とを主家の爲に盡す。余は彼の猜疑なき潔き心と活潑なる動作とを以て世の卑劣な腐れ根性の少年に一拳を促したいのである。
横濱市石川町 杉井敬順(十六)「犬を見よ」より
快晴。静かな日だ。
思はず飛起き、窓を開き見渡せば、太陽の光芒錦の如く、如何にも四十二年没して、新に四十三年となつた。
何處よりか、尾を振り、ワンワンと静かさを破つて、漂ふて來る。
犬は僕の下へ來た。
「お目出度。今年は私の年ですから……」と言はんばかり。
「ヤア、ピス君早いネー」
犬は無言。
!!!
「新年お目出度」と、子供の聲。「今年カラ、ドチラガ立派ニナルカ競走」
釧路第一尋常高等小學校(甲部) 若月武夫(十三)「元旦の朝」より
人通らずし風吹かずして、幽かに夕暮告ぐる。晩鐘さへ餘韻全く絶え、そぞろ寂しさは身にしむ。
四邊は次第に薄暗くなりて、空には星のきらめき二ツ三ツ……。
折しも犬の遠吠を聞く。やがて東の雑木林より月は静かにさし昇りぬ。既に星は空に滿つ。風一頻り、何處よりか落葉は散りかゝりぬ。後は唯淋しきのみなり。
岐阜縣揖斐郡養基尋常小學校五學年 宮川富雄(十一) 「墓畔に立ちて」より
寒い寒いと思ひながら、床の内にもぐりこんで十夜の鐘の音のかすかに聞ゆるを數いて居つた。
突然外に「雪だ雪だ大雪だ」との勇ましい弟の聲に直ぐ飛び起きて雨戸を開くれば、一陣の冷き風が余の襟元に來つて、今朝の初雪の吉なるを報じた。
つと見渡せば、前面の田圃は春夏兩季は青々と、秋は黄色と變り、今又銀の世界と一變して、我をして別世界にでも行けるが如き感あらしめた。
弟は愛犬ポチと共に雪の上駆け廻り、其跡は二の字を表し梅花を畫きつゝ餘念も無かつたが、をりしも來かゝる一人の子供を見つけてワン〃〃と其後を追つて彼方に行つた。
福島縣南會津郡田島町高等小學校 渡部貞助(十三)「初雪」より