揚子江岸を快速をもつて西進しつゝある石本部隊には今廿一頭の軍犬が最前線に出て敵情偵察に、或は傳令に血みどろの活躍をして ゐる。記者は武山々麓の軍犬班を訪れ、これらの物いはぬ勇士達の手柄話を聞いた。
軍犬手の梶原勝次(佐賀縣藤津郡)、牧尾正夫(宮崎縣都城市)、久賀野哲二(鹿兒島縣日置郡)、大塚清(臺北市榮町)の五氏は、愛犬の頭を撫でながら軍犬の奮戰を次のやうに語つた。
「この軍犬班にはジヤツクス號(四歳)、臺北市昭和町陸軍中佐藤重邦彦氏の愛犬を初め、アイリ―號(二歳)、ロースー號(三歳、大阪生れ)、アレス號(二歳、臺北生れ)の五頭がゐます。湖口攻略戰ではあwが部隊が敵の重圍に陥り本部との聯絡が絶えた時、傳令の大役に當つたのがジヤツクス號でした。
首輪に傳令書を入れ本部に向つて走り出した時、敵はジヤツクス號に十字火を浴びせたが、ジヤツクス號はこれを巧みに避けて匍伏前進をやつたり草かげに姿をかくしたりして走り續けました。
部隊長以下將兵は感謝の眼ざしてジツとこれを見守つたものです。
前線では食物不自由で自分達は鹽と水だけでよいから軍犬にだけは腹いつぱい食はしたいと思ふことが幾度もありました」
「軍犬殊勲の傳令・武山々麓軍犬班を訪ふ」より