京都深草町で生産し、伏見稲荷付近の売店で売つて居る伏見人形は、いつ頃から始められたか判然しないが、既に徳川の初期に行はれてゐた事は確で、其旺盛期は文化文政度で、今日継承されて居る原型は大抵其頃の物に外ならぬのである。
京詣りの土産物として各地に伝播され、各地の土偶製作に大なる影響を及ぼし、全國八十有余の土偶産地中直接間接に伏見の糸を引かない物はない程の土偶の権威であつて、現在製作する種類でも優に数百を算する程である。
布袋、おぼこ、饅頭頭、ちよろ、成田屋人形、俵牛撫牛、狐等有名なる物の沢山ある中に、犬の玩具も私の所蔵品だけで三十種位はある。
犬は一尺余の立狆より小は一山拾銭の皿盛り一文犬まで種々の形態の物がある。
写真の立狆は高九寸の白黒斑で綺麗な彩色をした涎掛をしてゐるが、此種の物も大小数種あつて右向が多い。
三疋犬は一文犬ともころ犬とも云つて鼻と耳と尾の黒い頗る可愛いゝ小犬で、これを三疋水引にて括り、神棚に供へて、子供の虫封じの禁厭とし、又「ひきつけぬまぢない」と記して売つて居る。
河内の國の石切剣箭神社ではこの小犬を子供の夜泣止禁厭として下げ渡して居る。
高橋狗佛「伏見の狆ところ犬」より 昭和10年
ちなみに、これを書いた高橋さんとはあの高橋さん
です。
戦前の犬玩具コレクター・高橋狗佛の解説は史料価値も高いので、ちょくちょく掲載して行く予定。
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伏見人形
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